問われる不祥事への対応、機関投資家の視点
さて、機関投資家は自社の基準または投資助言会社の提案する内容に従って議決権行使を行うものとしている。この点から見て会社提案はどうだろうか。フジメディア・ホールディングスの場合に問題となるのは、端的に言って昨年度発覚した不祥事案である。この点、日本生命の議決権行使精査要領では、不祥事が発生した場合に会社提案取締役選任議案に賛成する場合として「第三者による原因究明や社内処分等の責任明確化、再発防止策の策定・履行等といった適切な対策が講じられており、問題の根本的な解決が図られていると判断される場合」としている。
また、投資助言会社のブラックロックのガイドラインによれば、不祥事等の発生に「責任があると考えられる取締役の再任に反対する。ただし、速やかかつ適切な社内対応や処分が公表され、社会的信用の回復が図られている場合は、必ずしもこの限りではない」としている。したがって2024年3月31日に公表された第三者委員会の報告を受けて実施、あるいはそれ以前から取り組んでいた責任者の処分や不祥事発生再発防止・再生のための取組が機関投資家においてどう判断されるかが焦点である。
他方、株主提案について機関投資家はどう判断するか。日本生命の議決権行使精査要領では「提案者以外の株主の利益や価値向上に資するかという観点から慎重に判断する」とし、また、ブラックロックのガイドラインでは「株主提案を評価する際は提案内容が長期的な価値創造に寄与するかどうか」に着目するとしている7。
この点について、フジメディア・ホールディングスの説明を見ると、株主提案の取締役候補のうち、一部の辞退した候補者を除き面談した結果、「それぞれ特有の知見と実績をお持ちの優れた方々であり、フジテレビの再生に関して強い想いをお持ちであることを確認できました」とした。ただし、「取締役のスキルマトリクスに照らして、会社提案の候補者が最適」であり、また「取締役の数を増やすことは適切ではない」と判断し、株主提案に反対するとした8。確かにダルトン・インベストメントの取締役候補の略歴を見るとそれぞれ十分な経歴を有していることが分かる。問題は各候補者がどのようにスキル発揮できるかであろう9。
「オールスターチーム」の実現に向けた課題
株主提案については、平均年齢が高い、社業に専念できる社長候補が存在しないなどの批判がみられる。また公開情報の限りでは女性候補者が少ないようでもある。さらにダルトン・インベストメントも会社提案か株主提案かではなく「野球のオールスターチームを選ぶように、最適な取締役を選んでください」10と主張している。
そして、フジメディア・ホールディングスは監査等委員会設置会社であり、監査等委員である取締役を他の取締役と別に選任する(会社法329条2項)。株主提案では、この監査等委員である取締役の選任の議案がない11など株主提案だけに賛成することには困難な面がある。したがって機関投資家においては、増員の是非を考えたうえで、各候補者が同社でどのように貢献できるかという観点から評価を行い、賛否を判断するということになろう。
8 フジメディア・ホールディングスのリリースhttps://www.fujimediahd.co.jp/ir/pdf/release20250516_2.pdf 参照。
9 なお、6月10日、投資助言会社であるISS(インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ)は、「ファンド側は変化の必要性について説得力のある主張を展開できていない」として、会社提案に賛成し、株主提案に反対することをレポートとして公表した。NHKニュース https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250610/k10014831251000.html 参照。
10 https://www.daltoninvestments.co.jp/news/20250601 参照。
11 5月19日にダルトン・インベストメントから、一部の取締役候補を監査等委員である取締役候補にしたいとの申出があったが、株主提案の行使期限(株主総会8週前、会社法305条)を徒過してなされたものとして、不適法であり、応じないものとした。フジメディア・ホールディングスのリリースhttps://www.nikkei.com/markets/ir/irftp/data/tdnr/tdnetg3/20250521/fc2e9c/140120250521559824.pdf 参照。
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