ドルの弱さの根底にあるもの
それにしても、イスラエルのイラン攻撃は、なぜこのタイミングだったのか。トランプ米大統領は、イスラエルのネタニヤフ首相に対し、イランに軍事攻撃を行えば核合意に向けた交渉の妨げになるとして、自制を求めたと5月末にBloombergが報じている。「核合意に向けた交渉」とはオマーンでの米・イランによる新たな核交渉(第6ラウンド)だ。米国とイランは合意間近だった。それはイスラエルにとってバッドニュースだ。つまり、米国とイランが合意に至れば、「共通の敵」を失うことになるからだ。
しかし、あらためて思うのは米国という国の「威光」がどんどん失われているということだ。それが急速に露見している。レアアースを巡る今回の米中交渉では、レアアースという切り札を中国に握られている以上、当然の結果といえばそれまでだが、米国は中国に完敗だった。
ロシア・ウクライナの仲介役を買って出たはずのトランプ大統領はロシアのプーチン大統領に完全に丸め込まれている。先月下旬、トランプ氏はプーチン大統領との電話協議で、即時停戦についての合意を得られなかった。ウクライナのゼレンスキー大統領とも電話協議を行ったが、ロシアとウクライナによる直接交渉を主張するなど、もう仲介役を事実上「降りる」といっているに等しい。ロシア・ウクライナ情勢はロシアの優勢が目立つ。
そこにきて今回のイスラエルのイラン攻撃だ。前述のとおり、トランプ氏はイスラエルのネタニヤフ首相に対し、イランに軍事攻撃を行えば核合意に向けた交渉の妨げになるとして、自制を求めたはずだが、イスラエルはそれを振り切ったということだ。
こうした米国の国際社会でのプレゼンスの低下がドルの弱さの根底にあるのかもしれない。有事でドル買いが起きなかった理由がそうだとすれば、非常に怖い話である。単なるインフレ鈍化や景気減速で利下げ観測によるドル安で済まない恐れがある。
関税や債務などの経済問題だけでなく、トランプ氏の政策は「米国の強さ」の源泉を衰退させるものだ。ハーバードなど大学との確執、留学生受け入れの問題、カリフォルニア州での州兵派遣問題など米国の自由と平等、知の創造を重視する風潮などイノベーションの源泉をすべてぶち壊すものだ。そこに国際社会での米国のプレゼンス低下が「米国離れ」を生んでいるのだろう。
ここでの困った問題は、トランプは中国やロシア、イラン、そしてイスラエルでさえ思うように渡り合えないので、「いうことをなんでも聞く相手」=日本(と韓国)にだけ、強気姿勢でふるまう可能性があることだ。
それが自動車関税の引き上げの可能性に言及したことだ。米国の自動車市場では日本車と韓国車が米国メーカーの唯一の競争相手である。ほかの関税は下げても自動車は下がらない可能性が高いと思う。その理由は、日本と韓国相手に譲歩する必要がないからである。
その意味で、来週カナダで予定されているG7サミットの場での日米首脳会談は予断を許さないだろう。
広木 隆
マネックス証券株式会社
チーフ・ストラテジスト 執行役員
※本記事はマネックス証券 チーフ・ストラテジスト広木隆氏のストラテジーレポート『ドル安の背景にある米国の威信低下』を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。また、投資による結果に編集部は一切責任を負いません。投資に関する決定は、自らの判断と責任により行っていただきますようお願いいたします。
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