基礎控除3,600万円を超える財産
和恵さんの財産を評価すると、自宅と賃貸マンションで8,000万円、預金が1,500万円、葬儀費用が200万円かかりましたので、差し引き9,300万円の評価となります。
相続人が1人なので基礎控除は3,600万円、相続税は1,010万円となります。預金でなんとか払えるとはいえ、相続税の負担はなるべく減らしたいところです。そこで次に確認したのが養子縁組しただけでなく、「同居」していたかということです。
茜さんに確認すると、養子縁組をする頃から、高齢の和恵さんは一人で生活するのは大変になり、茜さんは家族の理解のもと、住民票も移して和恵さんのマンションで同居してきたと言います。
同居の実態があり、住民票も移しているとなれば、問題なく、居住用の小規模宅地等の特例が使えると判断しました。よって自宅マンションの土地評価は80%減できます。あわせて賃貸しているマンションにも50%減の評価が適用できると判断できました。これにより、土地評価が4,500万円下がり、相続税は130万円。特例を適用することで相続税は87%減額できます。
小規模宅地等の特例が適用できる条件とは?
「小規模宅地等の特例」は、亡くなった方が居住していた宅地について、一定の条件を満たす相続人が引き継ぐ場合に、その土地の評価額を最大80%減額できる制度です。具体的には、被相続人の居住用宅地について、最大330㎡まで評価額を80%引き下げることが可能です。
この特例を受けるにはいくつかの要件がありますが、特に重要なのが次の2つです。
- 同居親族であること(相続開始直前に同居していた)
- 相続開始から相続税の申告期限(10カ月)までその宅地を所有し続けていること
茜さんは、和恵さんと同居しており、法的には養子でもあるため、これらの要件を満たしていました。そのため、自宅マンションの土地評価を大幅に減額することができ、相続税の負担を大きく軽減することができました。
「養子縁組」だけでは、小規模宅地等の特例を適用することはできないため、茜さんの決断が功を奏したと言えます。
申告期限までの自宅売却はNG──特例が使えなくなる落とし穴
次に重要なのが、「相続税の申告期限まで自宅を売却してはいけない」という点です。小規模宅地等の特例を適用するには、相続税の申告期限(通常は相続開始から10カ月以内)まで、その土地を所有している必要があります。
仮に、相続発生後すぐに自宅を売却してしまった場合、要件を満たさなくなり、この特例は適用されなくなります。つまり、土地の評価額がそのまま課税対象となり、高額な相続税が課せられる可能性があるのです。
そのため、茜さんに対し、次のような方針でサポートを行いました。
-
相続税の申告を先に完了させる(特例適用を含めた申告)
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申告期限を過ぎてから自宅売却を進める
こうすることで、特例を活かしたまま不動産を現金化することができます。最初に売却を急がず、制度を理解した上で手続きを進めることが重要なのです。
まとめ:養子縁組&同居のメリットは大きい
- 養子縁組により法定相続人となることで、相続人としての権利を確保できる。
- 同居していたことにより、小規模宅地等の特例が適用され、大幅な相続税軽減が実現できた。
- 特例をいかすには、相続税の申告期限まで自宅を売却しないことが条件となる。
- 法的手続きと同時に、「誰に何を残すか」という想いの整理も大切。
- 制度は複雑なため、専門家に早めに相談することで損を防ぎ、安心につながる。
和恵さんの思いをしっかりと形にし、思い残すことなく旅立たれたその心は、きっと安らぎに満ちていたことでしょう。そんな和恵さんを最期まで支え続けた茜さんの姿は、本当に見事だったと言えます。そのうえで、これからの茜さんの生活に、和恵さんの遺した財産が役立てられることを願っています。他人でもこうした出会いで養子縁組&同居により、より信頼関係が築けるのだと実感した事例でした。
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