父の思い出が詰まった家をめぐり、娘と親族が対立しています。70代の敦子さんは「父が建てた家を守りたい」と訴えますが、後妻の親族は「施設費用のために売りたい」と主張。名義は3人共有、しかも土地は“国有地の借地”。感情と法的権利が複雑に絡み合う中、思い出をどう守るかが問われています。相続実務士・曽根惠子氏(株式会社夢相続 代表取締役)が解説します。
“父の思い出の家を守りたい”娘と、“施設費用のために売りたい”親族の攻防
相談に訪れたのは、間宮さんご夫婦。今回は、妻の敦子さん(70代)の相談です。
敦子さんは「父の家を守りたいんです。思い出が詰まっていて、売るなんて考えられません」と興奮気味には切り出されました。実家をめぐって親族でもめているというのです。
父の再婚と複雑な家族関係
敦子さんの父親は、戦後に土地を借地として取得し、自ら建てた家に家族で暮らしていました。母親が早くに亡くなったあと、父は60代で再婚し、後妻となったのが文子さん。現在96歳で、施設に入居中です。
敦子さんと後妻の文子さんとは養子縁組をしておらず、法律上は血縁関係がありません。
ところが、父親が亡くなった約10年前、父親の財産の大部分は借地権でした。借地権の登記となる建物の名義は「父親の相続人3名」として、敦子さん・妹の富子さん・後妻文子さんの3人がそれぞれ3分の1ずつ相続していました。
「父親が再婚したとき、家を守るためだと思っていたんです。まさか、こんなことになるなんて……」 敦子さんは、言葉を詰まらせながら当時を振り返ります。
始まりは一本の電話から
きっかけは、ある日突然かかってきた一本の電話でした。
「後妻・文子の妹の娘の美紀です」
という女性からの連絡でした。文子さんの姪になります。
「伯母(文子さん)の施設費用がかさみ、家計が苦しいんです。この借地権を売却して資金に充てたいと考えています」
思いがけない申し出に、敦子さんは耳を疑いました。
「あなたは一体……え? 売る? だってあの家はお父さんが建てたんですよ。父の思い出の場所を、お金のために売るなんてできません!」
しかし、文子さんの姪も一歩も引きませんでした。
「文子おばさんにも3分の1の持分があります。伯母の代わりに私たちが手続きを進めます。司法書士の夫も『問題ない』と言っています」
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
一般社団法人相続実務協会 代表理事
一般社団法人首都圏不動産共創協会 理事
一般社団法人不動産女性塾 理事
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書86冊累計81万部、TV・ラジオ出演358回、新聞・雑誌掲載1092回、セミナー登壇677回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2025年版 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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