年買法が評価される背景には「売り手の納得感」がある
年買法が多くの中小企業の現場で使われる最大の理由は、「売り手の腹落ちの良さ」にあります。
たとえば、ある地方の製造業のオーナーが、引退を考えM&Aによる事業承継を検討したとします。このとき、「DCFで計算すると10年後のフリーキャッシュフローが……」といわれても、実感が湧きません。
一方で、「現在の資産を再評価するとこれくらいの価値があります。そして、今後3年間あなたが経営を続けた場合にこの程度の利益が見込まれるので、合計でこの金額が会社の価値になります」と説明すれば、非常に納得しやすくなります。
売り手が納得しやすい評価軸を持つことは、M&A交渉をスムーズに進めるうえで非常に重要です。数字の根拠が売り手の感覚や経験と一致することで、初めて「じゃあ売ってもいいかな」という意思決定につながります。
DCF法と年買法、どちらが正しいのか?
理論的な正しさを重視するなら、DCF法が優れているというのは間違いありません。将来のキャッシュフローを現在価値で評価するという手法は、企業の成長性を評価するうえで非常に有効です。
ただし、M&Aの現場では「正しさ」だけでなく、「伝わるかどうか」「納得されるかどうか」が大切です。特に中小企業のオーナー経営者が相手の場合、DCF法の説明は専門的すぎて通じないことが多々あります。
そういった意味では、年買法はDCF法を補完する現実的な評価手法として位置づけるのが望ましいと考えています。実際、私自身も今では、売り手の立場に立ったときに「年買法の方が理にかなっている」と感じる場面が多くなってきました。
経営者の立場に立つ評価手法こそがM&Aの成功を導く
M&Aにおいて最も重要なことは、関係者すべてが納得し、合意に至ることです。そのためには、評価手法もまた、売り手・買い手の立場を踏まえた現実的なものである必要があります。
年買法は、引退を控える中小企業のオーナー経営者にとって、資産と利益という直感的に理解しやすい要素を用いて価値を説明することができます。これこそが、年買法が長年にわたり実務の世界で活用されてきた理由です。
M&Aは単なる数字の取引ではなく、「想い」の承継でもあります。その橋渡し役として、会計士や仲介者が選ぶべき評価方法は、常に現場目線に立ったものであるべきでしょう。
岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
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