〈中小M&A〉で重要なのは、関係者が納得し合意できるかどうか。いま現場で「正確な」DCF法より、「納得感のある」年買法が好まれる理由【公認会計士が解説】

〈中小M&A〉で重要なのは、関係者が納得し合意できるかどうか。いま現場で「正確な」DCF法より、「納得感のある」年買法が好まれる理由【公認会計士が解説】
(画像はイメージです/PIXTA)

M&Aといえば、将来のキャッシュフローを割り引いて企業価値を算出する「DCF法」が王道とされます。ですが、引退を見据える中小企業のオーナーにとって、10年先の利益を前提にした評価は、現実離れして感じられることも少なくない。そんななかで実務の現場では今なお一定の支持を集める「年買法」という手法がある。本記事では、公認会計士・税理士の岸田康雄氏が、「年買法」について、詳しく解説します。

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M&Aで用いられる現実的な評価方法

まず年買法とは、正式な財務評価理論の枠組みではありません。税理士やM&A仲介業者の間で通用している実務的な評価手法の1つです。会計学やファイナンス理論の教科書には載っていないものの、現場では一定の合理性を持って運用されています。

 

年買法の基本的な評価式は以下の通りです。

 

株主価値=時価純資産+営業権

 

ここでいう「時価純資産」とは、企業の保有資産を実際の市場価値(時価)で評価し直した純資産を指します。貸借対照表上の帳簿価格(簿価)ではなく、市場に近い価格で資産価値を再評価することがポイントです。

 

一方で「営業権」は、今後の一定期間にわたって継続的に営業活動を行うことによって得られる利益の蓄積、つまり「のれん価値」を意味しています。この営業権については、営業利益や経常利益などに3年〜5年分の年数を乗じて計算することが一般的です。

ファイナンス理論では否定されがちな「年買法」の立ち位置

私自身も若いころ、外資系の投資銀行に在籍し、マッキンゼーの企業価値評価マニュアルなどを徹底的に読み込んできました。当時の私は、理論に忠実なDCF(ディスカウントキャッシュフロー)法こそが正しい株式価値評価手法であり、年買法など「非合理的」な古いやり方だと信じて疑いませんでした。

 

しかし実務の世界では、DCF法はときに机上の空論となり得ます。なぜならDCFは「将来のキャッシュフローを現在価値に割り引く」という考え方であり、それはあくまで企業の将来的な成長を前提としたモデルです。引退や廃業を視野に入れる中小企業のオーナーにとっては、そのような将来の成長性に価値を見出していないケースが少なくありません。

年買法が経営者にとって合理的である理由

中小企業のM&Aにおける売り手の多くは、現役を退き、事業を他者に譲り渡そうとしている経営者です。彼らにとって重要なのは、「これからどれだけ稼げるか」ではなく、「今、会社を手仕舞いしたら、いくら手元に残るか」という視点です。年買法はまさにその問いに答える評価方法です。

 

時価純資産の部分では、仮に会社を清算した場合に、資産を市場で売却して得られる金額を計算します。建物、機械設備、在庫などの事業用資産を「売却前提」で評価するため、DCF法とは真逆のアプローチとなります。

 

営業権に関しても、収益性を反映した理論的な「のれん」とは異なります。こちらは、実際にM&A成約に至るまでの期間(通常3〜5年程度)に、現経営者が引き続き経営を担いながら生み出すであろう利益を目安にしているのです。

 

すなわち、成約に至るまでに必要な事業運営期間分のキャッシュフローを織り込むという発想です。

 

このように、年買法はあくまで売り手側の経営者の視点に立った「現実的」かつ「合理的」な評価方法であるといえます。

 

★いま中小M&Aの現場で好まれる「年買法」の評価についてはこちらをチェック!

【中小M&A】DCF信者がハマる「年買法」という罠!譲渡価額に潜む売り手の論理(公認会計士が解説)

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