物流「2024年問題」は序章にすぎなかった…迫りくる日本の「静かなる危機」と生き残り戦略

国土交通省『令和7年版 交通政策白書』を紐解く

物流「2024年問題」は序章にすぎなかった…迫りくる日本の「静かなる危機」と生き残り戦略
(※写真はイメージです/PIXTA)

国土交通省から今年の『交通政策白書』が公表されました。そのなかから、2024年問題で騒がれた物流業界について、山積する構造的課題と、解決に向けた対策や実際の取り組みについてみていきましょう。

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    迫り来る課題:労働力不足と非効率性の是正

    人口減少や少子高齢化の進展、EC市場の拡大……日本経済を支える社会インフラである物流は、現在、大きな変革期に直面しています。多岐にわたる課題が山積しており、その解決は喫緊の課題となっています。

     

    そのなかでも最も差し迫った課題のひとつといえるのが、労働力不足です。特にトラック運送業では、長時間労働や低賃金といった労働環境の厳しさから若年層や女性が敬遠する傾向にあり、全産業と比較して有効求人倍率が一貫して高い水準で推移しています 。2024年からはトラック運転者への時間外労働の上限規制が適用されるようになりました。過労死防止の観点からは重要な一歩であるものの 、これに伴う輸送能力の低下、いわゆる「2024年問題」が懸念されています。政府や業界の取り組みにより、現時点では深刻な物流の停滞は回避され、「2024年問題と騒がれていたけど、騒ぎすぎだったのでは?」と思う人も多いでしょう。しかし 、これは構造的な問題であり、今後も継続的な対策が不可欠です。

     

    また効率化も大きな問題です。宅配便の再配達率は約10.2%と高く 、これは二酸化炭素排出量の増加やドライバーの負担増につながる社会的な損失です 。また中小事業者が95%以上を占めるトラック運送業界では、1事業者あたりの平均営業収入が数千万円から数億円にとどまるなど 、経営基盤の強化も求められています。

    デジタル化とGXが拓く物流の未来

    こうした課題に対応するため、政府は「物流革新に向けた政策パッケージ」や「国土強靱化基本計画」に基づき、多角的かつ抜本的な対策を推進しています 。その中核となるのが、デジタル技術の活用による物流DX(デジタルトランスフォーメーション)と、環境負荷低減を目指すGX(グリーントランスフォーメーション)です 。

     

    物流DXの推進においては、機械化・自動化に資する機器導入への支援や、サプライチェーン全体の輸送効率化に向けたAI、IoT等の新技術活用による実証実験が実施されています 。たとえば、国土交通省は、機械処理や二次利用が可能な「データ」として行政情報を再構築し、ビジネス創出や政策立案に活用する「Project LINKS」を展開。2024年度には無人航空機や地域交通等の分野で約10件のPoC(概念実証)を実施し、その有用性を実証しました 。また、港湾物流手続きの電子化・効率化を図る「サイバーポート」では、トラッキング機能の拡充や港湾行政手続きの電子化を進め、港湾全体の生産性向上を目指しています 。

    多様化する輸送モードと持続可能なネットワーク

    物流の効率化と持続可能性を確保するためには、多様な輸送モードの活用と、強靭な物流ネットワークの構築が不可欠です。政府は、トラック輸送から鉄道や内航海運へのモーダルシフト(トラックなどの自動車輸送を、鉄道や船舶などの環境負荷が低い輸送手段に転換すること)を推進。特に「物流革新緊急パッケージ」では、鉄道(コンテナ貨物)と内航(フェリー・RORO船等)の輸送量・輸送分担率を今後10年程度で倍増させる目標を掲げています 。

     

    これに向け、大型コンテナ導入支援や、輸送需要の高い貨物駅での施設整備が進められています 。さらに、ダブル連結トラックや自動運転トラック、航空貨物輸送といった新たなモーダルシフト(新モーダルシフト)の推進も視野に入れ、2024年11月には「新たなモーダルシフトに向けた対応方策」を取りまとめました 。

     

    災害時における物流機能の確保も重要な柱です。国土交通省は、重要物流道路の機能強化や、港湾におけるPS(Port Security)カード導入による入出管理の効率化、情報セキュリティ対策の強化などを通じて、強靭性と持続可能性を確保した物流ネットワークの構築を進めています 。また、気候変動への適応として、気象データの利活用を促進し、企業におけるビジネス創出や課題解決に繋がる「気象データアナリスト」の育成も進めています 。

     

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