トイレで耳にした会話で現実に
さらに、それから数日後。Aさんはゴルフ場のトイレで、偶然にも仲間のBさんとCさんの会話を耳にしてしまいます。
「Bさん、この後メシ行きます?」
「Aさんが行くなら行こうかな。あの人、言わなくてもいっぱい出してくれるから」
自分はいいように使われているのか――。そう感じた瞬間でした。そして現役時代からずっとお金を出し続けていた裏に、「誰かに必要とされていたい」という思いがあったことも自覚したといいます。
完全に我に返ったAさんは、ゴルフ仲間にこう切り出しました。
「ゴルフは好きだけど、ちょっとペースを落とそうと思ってるんだ。金を使いすぎちゃってさ。食事とか飲み会も、しばらく控えようかと」
トイレでの会話から、もう誘われることはないかもしれない覚悟でした。しかし、仲間からはこんな言葉が。
「言ってくれてよかったよ。俺らが甘えすぎてたな、申し訳ない。今後はちゃんと割り勘で楽しもうな」
帰り道の駐車場で、お金を出さなくても仲間として付き合えることに安堵したといいます。
老後に直面する収入の激減…それに見合った生活を
定年後、誰もが直面するのが「収入の激減」です。どれだけ現役時代に稼いでいても、65歳以降にフルタイムで働く人はそう多くありません。年金が主な収入源になる以上、生活スタイルを見直し、支出をコントロールすることは避けて通れない課題です。
しかし現実には、収入に見合った暮らし方ができないケースも多く見られます。その背景には、お金ではなく「承認欲求」や「孤独」があることも。
仕事に情熱を注ぎ成果を出してきた人ほど、退職後に役割を失うことへの喪失感を抱きがちです。誰からも感謝されず、予定も減った老後。そんなとき、誰かに喜ばれること、感謝されることが、自分の存在価値の証明に感じられてしまうのです。
たとえば、食事や趣味の場で自ら財布を開くこと。それは単なる出費ではなく、自分の居場所を守る手段である可能性があります。しかし、それが限りある資産を食いつぶし、長い老後生活を厳しいものにしてしまうことも。
財布を開かなければ続かない関係ならば、それは本当に大切な関係なのか立ち止まって見直すべきです。心の空白を「支払い」以外の方法で埋められるようにすることが、老後の生活を守る一歩になるでしょう。
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