委任状争奪戦の主な流れ
提案株主は単に説明会やウェブなどで自己の提出議案に賛同するよう求めることができる。この場合、規制はかからない。しかし、さらに進んで、提案株主が書面等で個別に委任状の提出を依頼する行為など、明示的な働きかけを行う場合には、金融商品取引法(金商法)施行令が定めるところに従わなければならない(金商法194条)とされる。金商法施行令の定める点は以下の2点であるが、詳細は「上場株式の議決権の代理行使の勧誘に関する内閣府令」(以下、規則)で定められている。
(1) 委任状勧誘に際し、その相手方(被勧誘者)に対し、委任状の用紙及び代理権の授与に関し参考となるべき事項を記載した書類(=参考書類)を交付する(施行令36条の2)6。なお、委任状には議案ごとの賛否を記載する欄を設ける(規則43条)。
6 一定の場合は電磁的に行うことができる。
(2) 委任状の用紙及び参考書類を交付したときは、直ちに、これらの書類の写しを金融庁長官(実務的には財務局長)に提出する(施行令36条の3)。
会社法上および金商法上、会社は提案株主の委任状獲得に協力すべき義務は課されていないため、提案株主は他の株主に対して、自己の経済的負担において委任状と参考書類を送らなければならない。委任状等の送付先は株主の株主名簿閲覧・謄写権(会社法125条)を通して入手することとなる。このように提案株主の負荷が重いため、大塚家具7等の事例などがあるものの、頻繁に行われるものではない。
7 東洋経済記事 https://toyokeizai.net/articles/-/63342 参照。大塚家具の事例では会社側・株主側とも機関投資家などの大株主に対して自分に賛同するよう交渉合戦が行われたとのことである。
最後に、金商法に反する委任状勧誘を行った場合は、法人・個人ともに30万円の罰金が科される(金商法205条の2の3第2号、207条1項6号)。また、違法な委任状勧誘に基づく株主総会の決議であっても、その違法性は決議結果の成否には影響しない。ただし、手続に重大な違反があるときには「著しく不公正な」決議方法として決議取消事由(会社法831条1項1号)となるとするのが判例・多数説である8。
8 松尾直彦「金融商品取引法(第7版)」p804参照。
会社をコントロールするには過半数の株式を保有するのが一般的である。ただ、FMHなどの認定放送持株会社については、一の株主が3分の1を超える株式を保有しても、3分の1を超える議決権部分についてその権利行使ができない(放送法164条)9。したがって株主が放送局の経営にモノ申したいときには、法的制約から直接的な支配権の取得が困難なため、遠回りではあるが委任状争奪戦などを通じて影響力を行使する必要がある。
9 なお、外資の議決権行使についても、外資の株式全部をあわせて20%以下に規制されている(放送法161条、116条)。
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