AIに関連するリスクの監視に対するFPCの取り組み
マクロプルーデンスをみる政策当局としてのFPCは、金融安定リスクに注目しており、リスクの実現とそれに対する方策が、最終的に、家計や企業業績に影響を及ぼす可能性がある。上記の通り、たとえ、ミクロ的に個々の企業の安全性や健全性に対するリスクが、適切に管理されていたとしても、集団行動の結果として金融安定を脅かすリスクが発生することがあることに留意しておく必要がある。
AIの進化については、その発展の速さや到達水準が極めて確実であると考えられる。そのことを踏まえて、マクロプルーデンス的な影響を継続的に検討する必要がある。
こうしたリスクに対して、FPCは、AIが金融安定に及ぼす影響のモニタリングを強化していく必要があるが、これには、イングランド銀行、PRA、FCA(金融行動監視機構)の活動、あるいは平時の監督情報活動の中でAI関連の動向に焦点を当てていくことが必要であると考えている。具体的な項目としては、以下のようなものを、既に実施、あるいは予定している。
・金融安定性に関するリスクを追跡するために、FPCが既に現時点でも日常的に行なっていることとしては、金融市場データを含む幅広い規制データや商業データソースの活用が挙げられる。
・英国金融サービスにおけるAIに関する調査。関連するメリットとリスクについて、回答者である金融機関等関係者の見解を得て、それぞれのセクターにおけるAI利用の現状と将来の予測範囲を想定する。
・AIコンソーシアムの活用。これは英国の金融サービスにおけるAIの能力、開発、展開、利用についての関係者からの意見を収集するための、官民連携プラットフォームとして設立されたものである。
・市場情報の活用。実際の金融市場参加者との議論を通じて、各業界の動向に関するタイムリーな詳細情報を得ることができる。
・監督機関からの情報の活用。PRAやFCAの規制対象企業や、銀行の規制対象FMI(金融市場インフラFinancial Market Infrastructure)を含む、AIの開発と利用に関する詳細な知見を得ることができる。
とはいえ、技術革新のスピードを考慮すると、AIが金融安定性に与える影響は、急速かつ予期せぬ変化をきたす可能性が大いにあるため、将来を見据えた柔軟なアプローチをとる必要がある。
また、AIが利用される社内プロセスなどは、機密情報が多いことから、公表(あるいは外部への提供)しにくいデータが含まれ、影響が業績データや指標にすぐには現れない可能性が高い。AIに関する調査を行う際には、イングランド銀行やFCAと協力して、できる限りの追加情報を得て、知見を高めていく必要がある。
おわりに
AIの金融システム上の役割は増大し、もたらす便益も拡大していくと予想される。当然その発展を業務に活用しない手はない。しかし、付随して関連リスクの方も増大していく。むしろそのリスクの内容やその大きさについては、これから観測され、検討されていくというのが現状であろう。監督当局側も引き続き、AI関連技術の進化の状況を調査したり、何らかのトラブル事象の調査を行う、あるいはその体制や組織を整備したりしていくといった状況下にあるようである。
それに加えてサイバー攻撃者が現れ、それに対処していく必要があるというのも厄介な課題である。金融機関の財務健全性の維持は、最重要課題であることには疑いはないが、一方で、利用者や保険契約者の利便性や、本人確認等の手続きが複雑になり利用者の利便性が低下するという事態は、できる限り回避したいところであろう。
AIの効能とリスクについては、金融機関だけではなく、企業から個人まで誰にでも関わりあるテーマであろう。今後も関係分野の動向を追っていくこととしたい。
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