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アメリカのテレワークを真似してはいけない
「アメリカの大手IT企業が、在宅勤務を減らしたり、禁止したりしているのに、テレワークを進めるのは最新の流れに反しているのではないか」といった相談を、日本企業の経営層から受けることが増えました。これに対し、私の経験から、アメリカと日本では、働く背景が違うという話をしています。
私は、2008年11月、アメリカ国務省の招待を受け、アメリカのテレワークの状況を視察しました。3週間でワシントン(連邦政府の中枢都市)、カラマズー(地方都市)、シカゴ(全米3位の大都市)、ダラス(地方の商工業都市)、シアトル(ITの先進都市)の5カ所を回り、45もの企業・団体・個人からテレワークの状況をヒアリングしました。そしてこの訪問により、アメリカは歴史的な背景や制度、マインドの面から「テレワークしやすい」国であり、一方で、日本は、もともと「テレワークしにくい」国であることを実感したのです。
アメリカのテレワークは、「石橋を叩かずに、渡る」かのごとく、あまり深く考えずに実施している印象でした。このままでは、いずれアメリカのテレワークは、停滞するのではないか。2008年の時点で感じた通り、その後何度も「アメリカの大手企業が、在宅勤務を禁止した」というニュースが日本にも流れました。
この経験から、私は、日本はアメリカのテレワークを真似してはいけない、日本の「仕事の進め方」「評価と報酬」「雇用の形」に合った、日本型テレワークを推し進めるべきだと主張してきたのです。
例えば、日本の企業が、労働力不足状態でないアメリカの企業の真似をして「出社する人しか雇わない」方針を取るとどうなるでしょうか。働きながら子育てや親の介護をする人は、仕事を辞めざるを得なくなるでしょう。企業の人手不足が進み、日本全体が停滞してしまうかもしれません。
アメリカの大手IT企業が出社に戻る理由
2013年頃、アメリカのヤフーの当時のCEOマリッサ・メイヤー氏が、突然、「在宅勤務制度を禁止する」という社内通達を出し、その後、アメリカのIBMでも「在宅勤務者に出勤指示を出した」など、何度か日本でも話題になりました。早くからテレワークが進んでいたアメリカでのテレワークの動きは、日本企業の経営者にも影響を与えてきています。
そしてコロナ禍を経て、米グーグルは、週3日以上、オフィスへの出勤を促すようになり、2024年には米アマゾンドットコムが全世界でテレワークを廃止する方針を発表しました。これらの理由は、正式に発表されたわけではありませんが、「テレワークだと社員同士のコミュニケーションが取りにくい」「マネジメントしにくい」「会社全体のエンゲージメントが低下する」といった理由が挙げられています。
しかし、これらの理由は、日本においても長く言われてきたテレワークの課題です。
アメリカの大手IT企業がなぜ今さら……。その理由は、これまで、テレワークでも「しっかりコミュニケーションを取る」、テレワークでも「しっかりマネジメントをする」、テレワークでも「きちんとエンゲージメントを高める」努力をしてこなかったからです。努力をしないでテレワークが成り立っていたのは、アメリカは成果主義であること、解雇がしやすいこと、もともと個人で仕事をすること等が挙げられます。企業として利益が上がっている間は、一部の社員がテレワークをしていても、会社全体には大きく影響しなかったのかもしれません。
しかし、コロナ禍で全社員がテレワークをすることになり、コロナ後の厳しい社会変化の中で、経営層が危機感を感じ、「出社」の方向に舵を切ったのではないか、また、人員整理の一環として「在宅勤務者」が対象になったのではないか、と言われています。

