企業も就労者も困惑する「残業規制+副業解禁」のジレンマ…働き手の権利を認めつつ、会社の機密を守るには【社労士が解説】

企業も就労者も困惑する「残業規制+副業解禁」のジレンマ…働き手の権利を認めつつ、会社の機密を守るには【社労士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

近年では「働き方改革」による残業規制で、就労者の労働時間を厳しく制限する一方、「副業」の解禁が進むという矛盾が浮き彫りとなっています。本記事では、副業・兼業を認める際の実務的なポイントを整理し、企業が抱えるジレンマへの対処法を見ていきます。特定社会保険労務士の山本達矢氏が解説します。

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残業規制+副業解禁という「ジレンマ」

働き方改革による残業規制や物価上昇で、就労者の生活はますます厳しくなっています。一方で、兼業への理解を進める企業も増え、だれもが気軽に掛け持ちできる「スキマバイト」などもメジャーとなったことから、副業を始める社会人は増加傾向にあります。

 

副業者の割合は、2012年には約234万人で全体の3.6%でしたが、2022年には332万人と全体の5.0%まで増加しています。副業・兼業を認める企業の割合も、2012年は24.4%でしたが、2022年では53.1%まで増加しています。

 

企業側にとって、副業・兼業の解禁は「従業員のスキルアップ」「企業イメージの向上」「社外の人脈の広がり」といったメリットが、従業員側には「収入増加」「本業以外のスキル習得」「自己実現」といったメリットがあります。

 

しかしその反面、「ノウハウの流出」「機密保持」「業務パフォーマンスの低下」など、看過できない懸念も伴います。

副業・兼業をめぐる原則と企業の裁量

副業・兼業に関する裁判例では「労働者が労働時間以外の自由時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由」とされています。企業側としては従業員の副業・兼業を認めながら、下記のような理由により一定の制限を設けることも必要だといえます。

 

●業務パフォーマンスの低下

●ノウハウの流出

●機密情報の漏洩リスク

●自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

 

企業としては、下記のような「ジレンマ」への対応も検討する必要があります。

 

ジレンマ① 業務パフォーマンスの低下

副業が原因で遅刻が増える、成果に悪影響が出るといったことも想定されます。企業側は、副業開始前に副業先の勤務予定日や予定時間などの届出のルール化の検討が必要になります。

 

寝る間も惜しんで働く場合は、企業として見直しを求める必要があります。また、健康診断、ストレスチェックなどで心身にかかる負荷にも配慮しなければなりません。

 

ジレンマ② 情報漏洩と機密保持

副業先で得た知識を自社に活かすメリットがある一方、業務情報や顧客データの漏洩は企業の信頼に関わります。とくに競合他社での副業は利益相反の可能性もあり、慎重な判断が必要です。副業開始前に、副業先の事業内容や担当業務を届出書などで確認する必要があります。

 

また、情報漏洩や機密保持に関する就業規則や懲戒規定の見直しもチェックすべきポイントです。

 

ジレンマ③ 人事評価とキャリア開発の整合性

副業・兼業が可能になると、従業員が副業に意義を見出し、社内での成長や昇進を重視しなくなるケースも出てきます。本業と副業の逆転現象です。

 

自分で事業を始める場合は、従業員自身も経済的なリスクを懸けて起業するので、なおさら起こりやすいパターンです。

 

対策としては、副業先で得たスキルと本業とをリンクさせる業務の見直しや、副業経験を評価に反映できる制度設計などが考えられます。

 

「この会社は副業を評価してくれる」「この会社だから副業が活かせた」といった社内キャリアの魅力づけは、従業員のリスキリングやキャリア支援に繋がる一手になります。

ほかにも気をつけたい…副業・兼業の注意点

①残業代の計算 

副業が始まると残業代の計算も煩雑になります。とくに副業先の企業では、勤務開始=すぐに残業代の対象になるケースもあるので、採用時に注意が必要です。また、自社の時間外協定の範囲や、時間外労働の上限規制である単月100時間未満、複数月平均80時間以内に勤務時間が収まるかどうかも管理が必要になります。

 

②労災発生時の手続き 

労災発生時の休業補償等はもともと労災が起こった会社の給与のみで計算されていたのが、2020年の法改正により「本業の給与+副業先の給与」で合算して計算されるようになりました。副業・兼業者の労災事故発生時の手続きの際には注意が必要です。

 

③雇用保険の加入 

雇用保険は、週20時間以上勤務するメインの企業でのみ加入しますが、2022年より65歳以上の方は「一定条件をクリアすれば20時間以上」という加入条件を本業と副業で合算できる制度も始まっています(雇用保険マルチジョブホルダー制度)。

 

④社会保険の加入 

社会保険も「副業先の法人の役員(起業した場合も含む)」「正社員の3/4以上の時間を勤務する場合」「週20時間以上勤務する場合」など、一定条件を満たすと副業先でも社会保険加入が必要になります。

副業希望者、今後も増加が予想…ルールの確認を

副業を検討している人の割合は今や4人に1人以上という統計もあり、副業希望者の割合は今後も増加が予想されます。人生100年時代を迎え、自らの希望する働き方を選べる環境を作っていくことが求められており、副業・兼業などの多様な働き方へのニーズが高まっています。

 

副業・兼業は、新たな技術の開発、オープンイノベーション、起業の手段や第2の人生の準備として期待される一方で、長時間労働や情報漏洩、ノウハウの流出も懸念されます。

 

企業としてはまずは就業規則を中心に副業・兼業のルール作りやフローの作成、そして従業員に対しての制度の周知を、従業員としては自分の勤務先が副業・兼業についてどのような制度になっているのか把握するところから始めてみてはいかがでしょうか。

 

 

山本 達矢
社会保険労務士法人WILL
代表社労士
特定社会保険労務士

 

 

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