〈経営者必読〉会社に労基がやってきた!…特定社労士が教える「調査の種類」「当日の流れ」「確認される調査ポイント」

〈経営者必読〉会社に労基がやってきた!…特定社労士が教える「調査の種類」「当日の流れ」「確認される調査ポイント」
(※写真はイメージです/PIXTA)

企業にとって労働基準監督署(以下、労基署)の調査は、突然の出来事のように感じられるかもしれません。しかし、令和5年の労働基準監督年報では全国約382万事業場に対して、約17万の事業場が調査対象になっており、その割合は約4.4%。調査は決して特殊な事態ではなく、全国約3,100人の労働基準監督官によって日常的に行われています。本記事では、労基署の調査の種類や流れ、確認される主なポイント、そして企業として備えておくべき実務対応について、特定社会保険労務士の山本達矢氏が解説します。

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調査は主に「定期監督・申告監督・災害時監督・再監督」の4種類

労基の調査には主に「定期監督」「申告監督」「災害時監督」「再監督」の4種類があります。以下、それぞれについて概要をまとめます。

 

(1)定期監督

 

定期監督は最も一般的な調査で、当該年度の監督計画に基づき、業種・地域・規模などを踏まえて対象企業が抽出されます。たとえば、長時間労働になりがちな業界(IT、建設、飲食業など)や、過去に是正勧告を受けた企業、あるいは新設法人が対象になることもあります。労働時間管理、残業代の支払い、36協定の届出、労働条件通知書・就業規則の整備など幅広く確認されます。

 

(2)申告監督

 

労働者からの通報(申告や相談)をきっかけに行われる調査です。特定の社員の「未払い残業代」や「長時間労働」などが問題となり、労基署が事実確認のために臨検・指導を行います。労働者保護のために、通報であると告げずに定期監督と並行して行うケースや、社員からの申告があった旨を明らかにして実施するケースもあります。

 

(3)災害時監督

 

大きな労災事故が起きた場合に行われる調査です。労働安全衛生法の観点を中心に、労災発生の原因の追究や、講じられる対策の調査が実施されます。大怪我だけでなく、複数人が同時に巻き込まれた場合や、何度も同じ事故が発生している場合も対象になる場合があります。

 

(4)再監督

 

一度調査が実施された企業に対して行われる再調査です。前回是正されたことが元の状態に戻っていないか、きちんと継続して改善されているかを確認するものです。令和5年では約13.9万件の定期調査に対し、約10%にあたる1.3万件の再監督が実施されています。再監督で再度同じ是正の指摘を受けると検察庁への送検リスクが高まるため、その場限りの改善にならないよう注意が必要です。

調査の流れと当日の対応

労基署の調査は、以下のような流れで実施されます。

 

(1)事前連絡

 

数日前に文書等で連絡が来ることが多く、持参すべき書類のリストも同時に通知されます。一方、無予告でいきなり来ることも珍しくありません。無予告の調査であっても断ることはできませんが、当然、担当者不在や業務の都合で対応が難しい場合もあり、そのようなときは、日程の変更を依頼するのも方法のひとつです。激高して暴言を吐くなどすれば、心象を悪くするだけでなにもメリットはありません。

 

(2)調査当日

 

監督官が会社に来訪するパターン(訪問調査)と、会社が労基に出向いて調査を受けるパターン(集合調査)があります。どちらも会社代表者または人事労務担当者、顧問社労士との面談が行われ、以下のような資料が確認されます。

 

●タイムカード、勤怠システムのデータ、シフト表

●賃金台帳、給与明細書

●雇用契約書、労働条件通知書

●就業規則(10人以上)

●36協定届

●健康診断結果、労災関係書類

●有給管理簿

●ストレスチェックの結果(50人以上)

 

また、場合によっては現場視察や従業員へのヒアリングが行われることもあります。

よく確認される調査ポイント

労基署が重点的に確認する主な項目は以下の通りです。

 

(1)労働時間の管理

 

実労働時間が客観的に把握されているか(タイムカード、IC打刻など)

●残業代等が適正に支払われているか

●休憩時間がきちんととれているか

 

(2)割増賃金の未払い

 

時間外労働、休日労働、深夜労働に対して正しい率で支給しているか

●名ばかり管理職として残業代未払いになっていないか

 

(3)法定書類の整備

 

雇用契約書、労働条件通知書の交付や記載内容に不備がないか

●就業規則等の作成や周知がされているか(従業員10人以上の場合)

●36協定の締結・届出および労働実態との整合性

 

(4)労災・安全衛生関係

 

労災発生時の報告義務(死傷病報告等)

●健康診断の実施と記録保存

●ストレスチェックの結果書類(従業員50人以上の場合)

労基から交付される書類は主に3種類

労基が問題を認識した場合、状況の深刻さの度合いによって下記の3種類の書類が交付されることになります。

 

「是正勧告書」

法令違反が確認された場合は「是正勧告書」が交付され、違反内容とその是正期限が明記されます。

 

「指導票」

法違反ではありませんが、改善する必要がある場合に交付されます。法的な拘束力はありませんが、対応すべき事項です。

 

「使用停止等命令書」

設備や機械の不具合などでいつ事故が発生するか分からない危険な状態の場合に交付されます。令和5年度だけでも、建設業、製造業を中心に約5,200件にのぼります。

 

たとえば、是正勧告書には是正期限が設けられており、企業側は是正報告書にて具体的な改善措置を記載し、期日までに提出する必要があります。必要に応じて、未払い賃金を支払ったデータや改善後のタイムカードなども添付します。

 

労働基準監督署による是正勧告は、行政指導であるため法的拘束力がありませんが、従わないと行政処分や刑事罰を受ける恐れがあるので、無視や放置は厳禁です。

労基の調査は、自社の労務管理の見直しを行うチャンス

労基の調査は自社の労務管理の見直しを行うチャンスでもあり、労使トラブルの未然防止や人材流出を防ぐきっかりにもなります。決してして恐れることなく、社労士・弁護士など専門家に相談しながら誠実に対応することが最も近道です。

 

 

山本 達矢
社会保険労務士法人WILL
代表社労士
特定社会保険労務士

 

 

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