家族との時間を取り戻したい。最期に後悔しないための選択
現在68歳の元会社員Aさんの現役時代は、自他ともに認める「仕事人間」。営業マンとして会社に認められること、そうして得た収入で家族を支えていることに満足していました。
「男が子育てでできることなんてたかが知れている。そう思って、ほとんどすべて妻に任せていました」
当然、できる限り長く仕事をしたいと考えていたAさん。しかし、57歳のときに、その考えを大きく変える出来事が。妻の病気でした。
「妻が乳がんになったんです。見つけたときにはかなり大きくて、全摘手術になりました。そのときに、いつまでも妻が一緒にいてくれるとは限らないんだと気づいたんです」
また、がんが見つかってから、すでに独立し、離れて暮らしていた娘とも話す機会が増えたというAさん。そこで、家族との思い出があまりにも少ないという事実を思い知らされたといいます。
「酷い話ですが、娘と2人でちゃんと話したのなんて、ほとんど初めて。少しずつ話すようになったんですが、家族の思い出が数えるほどしかなくて、本当にぎこちないんですよ。ああ、こんなことじゃダメだ、死ぬときに後悔すると思いました」
幸いなことに妻の予後はよかったのですが、再発や転移リスクもゼロではありません。こうしたことから、Aさんは仕事への考え方を完全に変えたといいます。
「これからは家族と一緒に過ごす時間を最優先にしようと思いました。それで、60歳できっぱり退職して年金も早くもらうことを決めたんです」
