ああ、固定資産税がムダに溶けていく…〈負動産〉を抱える55歳女性、父親の実家に居座る「ラスボス」叔母が憎くてしょうがないワケ【相続の専門家が解説】

ああ、固定資産税がムダに溶けていく…〈負動産〉を抱える55歳女性、父親の実家に居座る「ラスボス」叔母が憎くてしょうがないワケ【相続の専門家が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

地方にある360坪の広大な実家。相続人であるきょうだい5人で土地を分筆し、名義もそれぞれに分けたものの、現地の利用実態は変わらず、独身の叔母が実家を独占して住み続けている。建物は越境し、接道も確保できず、売却もままならないという状態に遥香さん姉妹は頭を抱えています。誰も使わず、税金だけがかかり続ける“負”動産と化した土地に、相続人たちはどう向き合えばいいのでしょうか? 相続実務士の曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が解説します。

こんな土地は相続したくない 固定資産税がかかる“負”動産

遥香さん姉妹は父親がこの土地の固定資産税を払っているのにずっと使えず、自分たちも、相続したくないので売りたいといます。

 

5区画のうち、道路側の右端に位置するC区画だけは自宅を建てて住んでいますが、B区画とC区画の間に2mの進入路があり奥に位置するD区画についても2mの進入路の実体はなく、ほぼ雑木林で入ることも、利用することもできない状態。


父親名義のE区画は叔母のすむ実家の建物が越境状態で建っていて、A区画とB区画の間にある2mの進入路はまったく実態がなく、生垣でふさがれているため、奥に入ることもできません。


土地を利用していないB区画、D区画、E区画の長男、次男、三男が協力すれば道路からの接道は確保できますが、現地の接道部分は実家の門からアプローチがあり、長女の理解と協力がないと門や樹木の解体工事ができません。となると、現状では、売却は不可能と言えます。

他人であれば調停できるが

分筆し、それぞれの名義に登記までしているのに、現実は叔母が独占使用しているようなことで、しかも、実家の建物を壊して、自分の敷地内に建て直す約束が守られてないことは、常識では許されないことです。


他人であれば、約束事を守らないのであれば、家庭裁判所に提訴するなりの方法が取れるでしょうが、きょうだい間のことで、しかも、口頭の約束事で書類を交わしていないというのです。


口頭であれば約束を守らなくていいということにはなりませんが、いまでは叔母はさらに開き直って「そんな約束はしていない」という始末。遥香さんは困惑を超えて「叔母の存在が憎くてしょうがない」とこぼしました。

相続放棄はできるか?

次に遥香さん姉妹は、この土地はいらないので相続放棄も考えているといいます。父親は自宅のマンションを所有していますが、それは配偶者特例を使って母親に贈与しておき、預金は残さず、実家の土地だけの状態にしておけば放棄してもよいというのです。


相続放棄の手続きを選択することは可能ですが、配偶者、子どもが相続放棄をすると、相続権は次にきょうだいに権利が生じますので、居座っている叔母や父親のきょうだいが相続することになります。


仮に全員が相続放棄をして国庫に帰属させようとする場合、土地上に建物や樹がある状態では認めてもらえず、すべて解体、伐採、伐根して更地にすることが要件になります。その間は弁護士に依頼して家庭裁判所の手続きが必要になるため、費用も時間もかかります。

 

そのため、相続放棄は現実的な選択肢にはならないと説明しました。

理想的な解決法

叔母の理解と協力を得ることが大前提になりますが、そもそも叔母の独占使用がすでにルール違反。なんとか、協力得られるようにしたいところ。


そのうえで、5人のきょうだいが公平に財産を活用できるようにするには、居住しているC区画以外の4人が売却して所有する割合で分けることしか方法はないと言えます。D区画、E区画は更地にしたとしても2mの接道だけでは車が入ることもしにくいため、区画を作り直す必要があります。


それには不動産会社へ売却して、現実的な区画割をするしかないと言えます。

認知症のためには民事信託も

独身の叔母以外はそれぞれ結婚して子どもがいますので、家族がフォローすることができます。ところが、独身の叔母は配偶者、子どもがいないため、これから認知症になるなどすれば、財産管理も意思決定もできなくなる可能性もあります。さらに現状のまま解体も売却もできないとなるのは避けたいところ。


そうした事態を避けるには、遥香さんなど子ども世代と民事信託契約をして、叔母の代わりに財産管理や解体、売却の手続きができるようにしておく方法が必要です。

まとめ

相続財産はそれぞれの相続人の独自の財産として活用できるようにしておかないと価値がありません。よって、あらためて売却して分けることでようやく相続が完了したと言えます。


こうした事態になったのは叔母の責任が大きいとは言えますが、そもそも土地を分筆、登記をしたときに関わった土地家屋調査士、司法書士などの専門家が表面的な手続きだけでなく、もっと踏み込んで現実的な分割までサポートしてあげるべきだったと言えます。


相続では単に手続きだけでなく、相続プランを作って、提案、サポートする相続の実務家が必要です。そうした人に依頼できていれば、遥香さんの父親やそのごきょうだいのように固定資産税だけ払っている“負”動産になって困ったということにはならないはずです。


遥香さん姉妹は方向性が整理できたので、早急に父親や叔母と相談したいということでした。

 

 

 

曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®

株式会社夢相続 代表取締役

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp)認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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