本社をめぐる国際戦略…税制が動かす企業の選択、アイルランドの製薬会社が争奪戦になったワケ【国際税務のプロが解説】

本社をめぐる国際戦略…税制が動かす企業の選択、アイルランドの製薬会社が争奪戦になったワケ【国際税務のプロが解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

企業が本社を構える国によって、税負担は大きく変わります。アメリカの多国籍企業は1990年代以降、タックスヘイブンと呼ばれる低税率国に本社を移す「コーポレート・インバーション」を活用してきました。こうした動きに対抗するため、米国では税制改正が進められ、日本もそれにならう形で対応策を講じています。アイルランドなどの低税率国は、法人税の安さとEU加盟国としての利点を背景に、世界の製薬企業の拠点として注目を集めました。本稿では、こうした企業再編の実例を通じて、グローバル経済における税制戦略の実態を読み解きます。

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コーポレート・インバーションの概要

法人がどの国を本店とするかによって、課税関係は大きく変わります。1990年代以降、米国政府が対抗策を講じる以前に、タックスヘイブンであるバミューダやケイマン諸島に本店を置き、米国法人を子会社とする組織再編が行われました。


このように、本店と子会社の位置関係を逆転させるスキームは「コーポレート・インバーション(以下「CI」)」と呼ばれています。


米国の税務当局は、CIに対して2004年の税制改正で2つの対策を講じました。

 

対策1: 米国法人の株主が、タックスヘイブンに所在する外国法人(持ち株会社)の議決権株式または資産価値の80%以上を保有する場合、その外国法人を米国法人として扱うことで、米国の課税を回避できないよう措置。

 

対策2: 上記の保有割合が80%未満かつ60%以上の場合、その外国法人は依然として外国法人として扱われるが、純損失の控除や外国税額控除などの税制優遇を受けることができなくなった。

日本もこの米国の税制を参考にし、2007年度税制改正により、CI対策税制を導入しています。

アイルランド製薬会社争奪戦

アイルランドは、北海道とほぼ同じ面積を持ち、人口は約515万人です。アイルランドが国際企業から注目される理由として、法人税の低さ(12.5%)や各種の税制優遇措置、そしてEU加盟国であることからEU域内輸出がスムーズに行えるという利点が挙げられます。

 

英国のEU離脱(ブレグジット)後は、英国に拠点を持つ外国企業の移転先としても注目されました。


2015年11月、米国の製薬大手ファイザー社(以下「ファイザー」)が、アイルランドの製薬企業アラガン社(2017年売上ランキング18位)との合併に合意したと報道されました。買収総額は1600億ドル(当時約19兆7,000億円)で、その年最大のM&A案件でした。
 

ファイザーの狙いの一つは、本社をアイルランドに移転することで、同国の低い法人税率の恩恵を受けることにありました。
 

なお、ファイザーは過去にも、英国の製薬企業アストラゼネカ社(同12位)を買収しようとした経緯がありますが、2014年5月に断念しています(当時の英国の法人税率は、米国の約半分でした)。
 

また、2014年7月には、米国製薬企業アッヴィ社が、今回武田が買収したシャイアー社を買収する可能性について報道されていました。

 

このように、米国企業によるアイルランドや英国など低税率国の企業との合併は、本社を米国から低税率国に移転させる意図が背景にあるケースが多く見られます。

低税率国の企業との合併は増える?

日本の製薬業界最大手である武田薬品工業(以下「武田」)は2018年5月8日、アイルランドの製薬大手シャイアー社を完全子会社化することを発表しました。
 

2017年当時の製薬業界売上ランキングでは、米国のファイザーを抜いて、スイスのロシュ社が1位でした。日本企業でトップ10に入っている企業はなく、最大手の武田でも19位にとどまっていました。
 

報道では、この買収劇について、経営戦略や業界再編の観点から多く取り上げられましたが、税の視点からも注目すべき点があります。
 

特にアイルランドの低税率を活用して納税地を移転する可能性があるかどうかという点です。

 

報道では、武田が本社を海外に移す計画はないとされており、当時の社長も明確にその意図はないと述べていました。

 

今後、税負担を軽減するために、低税率国の企業との合併などを通じて本社を日本から海外に移転する企業が増加する可能性は否定できません。

 

矢内一好

国際課税研究所首席研究員

 

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