(※写真はイメージです/PIXTA)

かつての経済大国の面影は消え、世界各国から大きく後れを取る日本。富裕層たちの間ではいま、海外へ資産配分を行う流れができています。世界をフィールドに活躍する弁護士・森和孝氏が、日本の富裕層たちの最新動向を解説します。

富裕層たちの間で加速する「地理的リスク分散」

世界の富裕層の間では「地理的リスク分散」の流れが加速しています。Henley & Partners社のレポートによれば、2024年には過去最高となる12万8,000人のミリオネア(投資可能な流動資産を少なくとも100万ドル以上保有している個人)が国を移動しました。特に注目すべきは、約6,700人がドバイに移住し、ドバイが3年連続で富裕層の移住先として世界トップを記録している点です。

 

Knight Frankの「The Wealth Report 2024」によると、UHNWIs(超富裕層、3,000万ドル以上の資産保有者)のドバイへの移住は前年比18%増加しています。この数字は、世界的な経済・政治情勢の不確実性が高まるなか、安定した環境と成長機会を求める富裕層の動向を如実に表しています。

各国からの資金流出とドバイへの集中

国別に見ると、中国からは世界最多かつ過去最多の1万5,200人のミリオネアが国外に移住し、2番目に流出が多いのは9,500人のイギリスとなっています。イギリスからの流出は、ブレグジット後の経済的不確実性や税制改正などが背景にあると分析されています。

 

近年、欧州の富裕層や投資家の間で資産の移動先としてドバイが注目を集めています。特に、かつてリスクヘッジの受け皿とされた英国やスイスからの資金流出が顕著です。また、ドイツは経済成長の停滞に直面しており、ドバイへの投資が盛んになっています。

 

ロシア・ウクライナ紛争の影響もあり、ロシアからの投資家もドバイへ資金を移動させる動きが見られます。政治的に中立的な立場を維持するUAEは、さまざまな国籍の富裕層にとって安全な避難先となっています。

日本の富裕層にも、密かに「海外資産配分」が広がる

2024年の予測データでは、日本から出る富裕層より日本に移住してくる富裕層の方が400人多いとされています。主にこれは中国などの近隣アジア諸国からの富裕層の移住による増加だと分析されており、日本人に限定するとすでに多くの富裕層が海外に移住しているといわれています。まだ本格的な流出が始まっているとは言えないものの、今後この流れが加速する可能性は高いと予想されています。

 

日本円とともに「安全通貨」と呼ばれたユーロの不安定化は、グローバル投資家の選択肢を変えつつあります。この流れは確実に日本にも波及するでしょう。実際、日本の富裕層の間でも、資産の一部を海外、特にドバイへ移す動きが静かに広がっています。

また、税金、特に相続税対策の観点からも、海外の不動産や金融資産への投資は有効な選択肢の一つとなっています。特に移住を伴う国際的な資産戦略は、長期的な資産保全と相続対策を両立させる手段として注目されています。

 

国際的な資産移動の潮流は、各国・地域の経済状況や政治的安定性、規制環境の変化など、多岐にわたる要因の影響を受けています。投資家にとって重要なのは、一国に資産を集中させることのリスクを認識し、各地域の特性を踏まえた分散戦略を構築することといえます。

 

【ちょこっとコラム】
信じられない!? 日本と大違いのサウジ裁判制度

 

ここで、ちょっと一息。ドバイがあるUAEのお隣の大国サウジアラビアのちょっとびっくりの訴訟手続きについてご紹介しましょう。ドバイの司法手続きは今後詳しく取り上げる予定ですが、今回は、グローバル化が大変進んだドバイではなく、変革を始めたばかりのサウジアラビアの司法についてご紹介します。

 

裁判で証言できる「証人の基準」がまずは驚きです。サウジアラビアでは「善良なイスラム教徒の男性2人、または男性1人と女性2人」の証言が必要とされます。日本では性別による証言の価値の違いは当然認められませんが、サウジアラビアでは、イスラム法の伝統が今も続いています。

 

次に驚きなのは「宣誓制度」です。裁判を起こした原告が十分な証拠を提示できなかった場合、裁判官は被告(訴えられた人)に「私には責任がありません」と宣誓するよう求めることがあります。被告がこの宣誓をすれば、それだけで訴訟は終了し、原告は敗訴となります。逆に被告が宣誓を拒否した場合は、今度は原告側に宣誓の機会が与えられ、原告が宣誓すれば勝訴となります。

 

要するに、「神聖な誓い」が重視される制度となっています。ただし、2020年以降は、法人に対する宣誓請求はできなくなるなど、徐々に国際基準に近い制度の導入が進められています。

 

また「血の代金」という古代からの賠償制度も健在です。死亡事故や人身傷害の場合、歴史的にはラクダ100頭相当、現在では約1,200万円(30万サウジリヤル)が損害額と推定されて、被害者に支払われます。

 

また、刑事と民事の境が曖昧な部分があり、民事裁判の判決に従わない場合でも投獄されるケースがあります。

 

中東での事業展開を考える際は、こうした日本と異なる法的環境も知っておくと安心ですね。

 

 

森 和孝
Eminence Luxe(ドバイ不動産仲介会社)Founder/CEO
One Asia Lawyers 国際弁護士(UAE法、シンガポール外国法、日本法)

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