(※写真はイメージです/PIXTA)

日本は世界トップクラスの経済大国であり、まじめに働き貯金していれば、人生はまず安泰――。かつての日本人が抱いていたイメージと真逆の状況にある現在の日本。人口減少は確実で、経済は世界各国から大きく後れを取り、いつ起こってもおかしくない自然災害リスクが警戒されています。世界をフィールドに活躍する弁護士・森和孝氏が、かつての価値観のまま日本にとどまるリスクについて警鐘を鳴らします。

50年後の総人口は現在の7割に、65歳以上人口がおよそ4割に

日本経済は深刻な構造的課題に直面しています。人口減少はすでに現実のものとなっており、日本の総人口は2008年頃に約1億2,800万人でピークを迎え、以降減少に転じました。

 

総務省のデータによれば、2025年3月1日時点で1億2,344万人まで減少しており、17年連続の人口減となっています。国立社会保障・人口問題研究所の最新推計(2023年)では、総人口は50年後に現在の7割に減少し、65歳以上人口がおよそ4割を占めると推計されています。

 

出典:総務省人口推計(2024年(令和6年)10月確定値、2025年(令和7年)3月概算値)(2025年3月19日公表)
[図表1]日本の総人口の推移 出典:総務省人口推計(2024年(令和6年)10月確定値、2025年(令和7年)3月概算値)(2025年3月19日公表)

 

より深刻なのは、生産年齢人口(15~64歳)の急減です。1995年の8,716万人をピークに減少に転じ、2020年には7,509万人に減少、2070年には約4,500万人まで減る見通しです。

 

この人口構造の変化は、経済活動だけでなく、不動産価値や社会保障制度の持続可能性にも大きな影響を与えます。地方の過疎化が進む一方で、東京一極集中は続いていますが、長期的には、東京都心部の不動産市場も人口減少の影響を免れないでしょう。

日本経済の長期停滞は、人口減少と労働生産性の低迷が大きく影響

日本経済の長期停滞も大きな課題です。IMF『世界経済見通し』(2025年1月版)によれば、2025年と2026年の世界全体の経済成長率は3.3%と予測されていますが、2025年の日本の実質GDP成長率は平均で0.8%と見込まれています。一方、米国は約2.7%、中国は約4.6%と予測され、1.0%のユーロ圏とともに日本の低成長が際立ちます。

 

日本経済の長期停滞は、人口減少とともに労働生産性の低迷が大きく影響しています。日本の労働生産性はOECD加盟38ヵ国中28位前後にとどまり、首位アイルランドの4割弱という低水準です。少子高齢化で労働力不足が深刻化するなか、生産性向上を抜本的に進めなければ成長の余地は限定的でしょう。

巨額の公的債務と財政リスク…円建て資産の実質的な目減りも

日本の公的債務はGDP比214%(約1,315兆円)に達し、第2位ギリシャ(170%)、第3位イタリア(140%)を大きく上回る、国際的にも非常に高い水準にあります。

 

一部では「国債の約90%が国内保有かつ円建てであるため、通貨発行によって債務不履行(デフォルト)を回避できる」という議論があります。この主張は法的なデフォルトを回避できるという意味では理論的に正しいものの、通貨供給の拡大がもたらす実質的な資産価値の目減りというリスクを十分に考慮していません。通貨供給が過度に拡大した場合には、円の国際的価値が低下し、資産価値への悪影響が生じる可能性があります。

 

過剰な通貨供給や財政不安によって円安が進行すれば、円建て資産の実質的な価値が目減りし、特に海外資産を持たない投資家には「隠れた課税」としての影響が生じます。このリスクを回避するためには、国際分散投資や実物資産、通貨バスケット戦略など、地理的・通貨的な分散が資産防衛の鍵となります。

円安進行…約10年間で日本人の国際的な購買力は約50%減少

実際に円安の進行も止まりません。2012年1月に1ドル=75円だった為替レートは、2025年現在150円前後まで下落しています。この約10年間で日本人の国際的な購買力は約50%も減少したことになります。

 

具体的には、10億円の資産を持つ人の国際的な購買力は、約1,333万ドル(2012年)から約667万ドル(2025年)へと大幅に目減りしてしまったのです。これは単なる理論上の損失ではなく、海外不動産や国際的な投資機会へのアクセスが実質的に制限されることを意味します。この事実は、富裕層の資産防衛において為替リスクへの対策が不可欠であることを示しています。

世界有数の自然災害リスク

加えて、日本は世界有数の自然災害大国です。

 

出典:Landgeist「Risk to Natural Disasters」(https://landgeist.com/2021/10/19/risk-to-natural-disasters/)
[図表2]自然災害リスク 出典:Landgeist「Risk to Natural Disasters」(https://landgeist.com/2021/10/19/risk-to-natural-disasters/

 

気象庁によれば、日本及び周辺で発生する地震の数は世界全体の約1/10に及びます。年間の地震頻度は、世界4位(震度1以上の地震の発生回数は年間1,500回以上)です。

 

日本政府の地震調査委員会は今年(2025年)の1月15日、マグニチュード8~9程度が想定される南海トラフ巨大地震の30年以内の発生確率をこれまでの「70~80%」から「80%程度」に引き上げたと発表しました。その南海トラフ巨大地震が発生した場合に想定される被害規模を検討してきた日本政府の作業部会は今年(2025年)の3月31日、最大で29万8,000人が死亡し、経済被害額は最大で292兆円(日本の年間GDPの約半分)に上るなどとした被害推計報告書を公表しました。

 

また、首都直下型地震も30年以内発生確率70%程度とされ、内閣府の被害想定では経済被害約95兆円(建物直接被害47兆円+経済停滞被害48兆円)に達します。このような巨大災害リスクは、長期的な資産保全を考える上で無視できない要素です。

 

 

森 和孝
Eminence Luxe(ドバイ不動産仲介会社)Founder/CEO
One Asia Lawyers 国際弁護士(UAE法、シンガポール外国法、日本法)

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