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1ミリたりとも公道に接していない実家
いま私たちが売ろうとしている祖父の家は、祖父が結婚し商売を始めたころに建てた築75年以上の古いものだ。登記簿謄本には、祖父の前の持ち主や、祖父が死んで伯父と父が相続したことをはじめ、権利の移転などの情報が記録されている。
私たちは当然なめるように目を通し、
「……いや、べつにヘンなところないですけど」
「いえ、松本さん(仮・高殿家実家)の登記簿は問題ないのです。問題なのはお隣の家です」
「隣……」
たしかお隣は亡くなった祖母の元実家で、現在父のいとこ夫婦(A家)が住んでいるはずである。親戚づきあいはまったくないが。
「じつは、お隣の家が、松本さんのご自宅の前面道路と、所有する土地を市と交換したのです」
衝撃の事実。っていうか、初耳。
「え、え、どういうこと?? 交換??」
「どうも道路の拡張工事をしたかった市が、お隣のA家の道路側の土地を譲ってもらうかわりに、松本さんの家の前の道路を交換したみたいです。ですので、厳密にいうと松本さんの家の前の道路は道路ではなく、Aさんの私有地です」
「私有地」
「公道に接してる部分はありません」
「そんなことある!?」
いや、しかしそんなことは実際にあった。登記簿ではたしかに家の前はA家の土地になっており、我が家の敷地の前面は1ミリたりとも公道に接していなかったのである。
公道に接していなかった
見た目は「普通の道」でも、この場合は、建築基準法で定められた規定を満たしていない私道なので、接道義務が果たされていない。
不動産屋さんを激詰め…おばあちゃんが通っているが?
「いや、そんなことある???」
さすがにこれはひどい。公を名乗る団体が善良な一市民に対する仕打ちではないと思う。だって、そんなことをすればうちが、のちのちどんな目にあうか、考えなくてもわかるだろう。公道に接していない家は再建築不可物件になるのだから。
呆然とする私、父、伯父、そして母。そしてその前を悠々と通り過ぎる近所のおばあちゃん。
「おばあちゃん通ってるが???」
私たちはおばあちゃんを見送ったあと、あれはどういうことだと不動産屋さんを激詰め……はしなかったけど食いつくように聞いた。
「あれどういうことですか、学校帰りの子どもも通ってますよね。でもそこは私有地では?」
「ああ、それはみんなが通れなくなったら困惑するだろうと、市とA家が話し合って私道通行権の許可を出したみたいですね」
俺らも困惑してるます!! 困惑してるます!! しかし、我々の困惑は市にはいっさい考慮されなかった。つまり、A家は近所の人もいままで通り通れるように通行許可を出した。(これを私道通行権と通行許可といいます)だからうち以外の人はなんら変わっていない。変わったのはうちだけ。祖父が亡くなり、伯父と父が相続したあと、ひそかに市と隣家がぶつぶつ交換をして再建築不可になったうちの家だけ! 我が家は激怒した。
「これはもう市を相手に裁判するしかねえ!!!!!!」

