旧来の「ものづくり信仰」が仇に?…機能や品質は世界トップクラスの日本企業が、Appleのような「熱狂的ファン」を生めないワケ

旧来の「ものづくり信仰」が仇に?…機能や品質は世界トップクラスの日本企業が、Appleのような「熱狂的ファン」を生めないワケ
(※画像はイメージです/PIXTA)

「なぜ日本からGAFAMのような企業が生まれないのか?」この問いはしばしば議論されますが、その答えは技術力や人材水準の違いだけにあるわけではありません。実業家であり経営コンサルタントの勝木健太氏は、「所有することによって特別感を得られる体験」を提供できていないことが、主な理由であると語っています。本記事では、勝木氏の著書『「マウント消費」の経済学』(小学館)から一部を抜粋・再編集し、その見解を詳しく解説します。

なぜ、日本からGAFAMが生まれないのか

米国企業が世界で圧倒的な競争力を誇る理由は、技術力や資本力だけにとどまらない。それ以上に重要なのは、消費者に対して「特別な自分」を実感させるMX(マウンティングエクスペリエンス)を緻密に設計する能力である。

 

MX(マウンティングエクスペリエンス)とは、特別な体験を提供するだけにとどまらず、それを通じて消費者が他者に対する優越感を実感できるように設計された体験のこと。それらの企業は、製品やサービスを通して、「他者とは違う自分」を感じさせる体験を創り出し、多くの顧客の心を摑むことで、強い購買意欲を引き出しているのだ。 

 

その最たる例がアップルである。同社の製品の魅力は、スマートフォンやパソコンとして優れた機能を有していることは言うまでもなく、「iPhoneやMacを持つ自分」というステータスを自然に演出できる点にある。

 

シンプルで洗練されたデザイン、直感的で誰もが使いやすい操作性、そして新製品発表のたびに注目を集める革新性──これらの要素のすべてが「アップルと共にある自分は特別だ」という感覚を顧客に抱かせるように綿密に計算されている。

 

アップルが提供しているのは「所有することによって特別感を得られる体験」そのものであり、それこそが同社の揺るぎないブランド力を支えている。

 

このような米国企業の成功例を前に、「なぜ、日本からGAFAMのような企業が生まれないのか」という問いがしばしば投げかけられる。多くの場合、その答えとして技術力や人材水準の違いが挙げられる。しかし、真の課題はむしろ「消費者に対して自分の価値を証明させる体験を提供できているか」という視点の欠如にあるのではないだろうか。

 

日本企業は製品の機能や品質において世界トップクラスの水準を誇るものの、「その製品が消費者に対してどのような価値を与え、いかにして自己表現の手段となり得るか」という体験設計が不十分であるため、アップルのような熱狂的なブランド支持を獲得するに至っていないのだ。 

次ページ「特別感を提供する」という視点の欠落

※本連載は勝木健太氏の著書『「マウント消費」の経済学』(小学館)より一部を抜粋・再編集したものです。

「マウント消費」の経済学

「マウント消費」の経済学

勝木 健太

小学館

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