「人生の最期は自宅で…」個人宅・高齢者向け施設で亡くなる人が年々増加。需要が高まる〈訪問診療〉の現場が抱える課題とその背景【訪問診療医が解説】

「人生の最期は自宅で…」個人宅・高齢者向け施設で亡くなる人が年々増加。需要が高まる〈訪問診療〉の現場が抱える課題とその背景【訪問診療医が解説】
(画像はイメージです/PIXTA)

高齢者向け施設にはさまざまな種類があります。各高齢者向け施設における医療の課題とその背景について、医療法人あい友会理事長の野末睦医師が、詳しく解説します。

特別養護老人ホームの「嘱託医」が減少中?

老健、特養の現状

ここからは特別養護老人ホーム(以下、特養)と、老人保健施設(以下、老健)についてお話します。

 

まず、老健は、介護を必要とする高齢者の自立を支援し、家庭への復帰を目指すためのケアを行う施設です。入所者数100人あたり、常勤医師を1人以上配置しなければなりません。つまり、老健で入所者さんに何か起きた場合は、その医師が対応するため私たちのように外部の医師は訪問しません。

 

一方で、特養は、配置医師と呼ばれるものを選定することになっています。この配置医師は常勤である必要がないため、近隣のクリニックや在宅医療機関の医師に依頼して嘱託医になってもらう場合が多くあります。嘱託医は定期的な訪問と併せて、入所者さんに何か起きた場合の対応も行います。

 

また、入居者自身が外部の病院に出向き医療を受けることに問題はありませんが、嘱託医以外の医師が特養へ訪問し、医療サービスを提供することは原則としてできません。

 

嘱託医への報酬は毎月定額での支払いとなっており、一般の訪問診療に比べると極端に価格が安く設定されていることが多いのです。

 

たとえば入居者が100人いる特養の場合、嘱託医に対する報酬は、ひと月あたり20~30万円が相場です。この報酬の中に定期訪問料などもすべて含まれます。往診料のみ別途となります。入居者100人の特養で、月報酬が仮に20万円だとすると、患者さん1人あたり月2,000円の診療報酬であるということになります。その他の高齢者向け施設への訪問であれば、診療報酬はだいたい1人あたり2万円ほどと、約10倍になります。

 

つまり、報酬は1/10であるにもかかわらず、その他の高齢者向け施設と同じ仕事を期待されるため、現在嘱託医はどんどん辞めていっています。

 

私のところにも、特養側から「嘱託医として契約をしてもらえないか」という依頼を受け、現在2施設の嘱託医を引き受けていますが、経営を持続させるためにも、これ以上特養を増やすのは難しいのが現状です。

 

この特養における嘱託医の低い報酬額については、在宅医療に携わるさまざまな人々によって問題視されていますが、なかなか改善される気配は見られません。今後、状況がよくなることを願うばかりです。

 

医師の間でも「他に主な収入源があり、社会貢献活動の一つとして嘱託医をするのであれば可能だが、そうでなければ、ビジネスとしてはなかなか厳しいものがある」という認識が広まりつつあります。

 

これまで特養は人気で、入居待ちをする方が大勢いることが社会問題になっていました。ところが、最近はこうして医療体制が難しいことも知られてきており、特養希望者が減ってきているという印象を受けます。

 

また、以前は介護認定が要介護度2以下の人が入居できましたが、現在は原則として、要介護度3以上でないと入居できません。介護認定が重い入居者が増えたにもかかわらず、医師の配置基準は変わっていないため、負担は増える一方です。

 

(参考:施設・居住系サービスについて|厚生労働省ウェブサイト掲載

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000044903.pdf

 

 

野末 睦
医師、医療法人 あい友会  理事長

 

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