病気で働けず、収入0円。医療費「40万円」自己負担…治療費が払えない層が生まれる<高額療養費制度改正案>の問題点【現役訪問診療医が解説】

病気で働けず、収入0円。医療費「40万円」自己負担…治療費が払えない層が生まれる<高額療養費制度改正案>の問題点【現役訪問診療医が解説】
(画像はイメージです/PIXTA)

2025年3月、自己負担額の見直し案が挙がったことで話題となった高額医療費制度。医療費負担の大きい世帯にとって心強い制度ではありますが、矛盾点もまた見受けられます。医療法人あい友会理事長の野末睦医師が経営者の視点から詳しく解説します。

高額療養費制度が擁する矛盾

高額療養費制度は、前年度の年収によって、その年の高額療養費の支払い限度額が決まります。この制度は改正される見込みです。2025年8月から2027年8月にかけて、自己負担額の上限が段階的に引き上げられることが決定していました。ところが反対意見が目立つため、一旦見送られている状況です(2025年5月30日現在)。

 

まず、現行制度(2025年5月30日現在)で考えてみましょう。たとえば、利用者が70歳未満、年収が約1,160万円以上ならば、ひと月の上限額は25万2,600円+(医療費-84万2,000円)×1% です。これが見直し案では15%の引き上げが提案されています。15%の引き上げとなると、29万0,400円+(医療費-96万8,000円)となり、ベース部分は約4万円の負担増となります。

 

また、当初の予定どおり段階的な引き上げが行われるとするならば、2026年8月からは年収の区分がさらに細かくなります。70歳未満で年収1,650万円以上の人の場合、限度額のベースは36万7,200円に引き上げられ、最終的な2027年8月からの引き上げでは、ベース部分は44万4,300円に達します。現行の限度額から単純計算で、25万2,600-44万4,300=19万1,700円、約19万円の増加額を負担する必要がでてくるのです。

 

一方で、住民税非課税世帯は、引き上げ後も限度額は据え置き、引き上げ幅は2.7~5%と、高所得者層と比較して緩やかです。

年収1,000万円以上の高所得世帯に対する引き上げ率が高いのは当然なのか?

高額療養費制度における限度額を改正するにあたり、年収1,000万円以上の高所得世帯に対する引き上げ率が高いのは、果たして当然と考えるべきなのでしょうか。たとえば、前年の賃金が2,000~3,000万円あった人は、前年は働くことができていたため、その収入が確保できていました。しかし、そういった人もいざ病気になってしまうと、多くの場合は就労困難となります。

 

前年度働いていたとしても、病気になって高額の医療費を支払うことになった際には、働くことができず収入は落ち込みます。にもかかわらず、引き上げの最終段階では70歳未満の住民税非課税世帯は自己負担額が3万6,300円程度なのに対して(図表1)、前年度の年収換算が高かった人(約1,650万円以上)は44万円をベースに、下記の計算分を支払うことになるのです(※1)。

 

■高額療養費自己負担額 段階的引き上げ 最終段階見通し(令和9年8月~)

70歳未満、年収換算約1,650万円以上、月単位の上限額(円)

 

(計算式)

44万4,300 +(医療費-148万1,000)× 1%

 

(※1​ 参考:https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001393881.pdf)

 

※1 義務教育就学前の者については2割。 ※2 収入の合計額が520万円未満(1人世帯の場合は383万円未満)の場合も含む。 ※3 旧ただし書所得の合計額が210万円以下の場合も含む。 ※4 後期については、年金収入+その他の合計所得金額が200万円未満(複数世帯の場合は320万円未満)の場合も含む
(図表1)患者負担割合及び高額療養費自己負担限度額(令和9年8月~) ※1 義務教育就学前の者については2割。
※2 収入の合計額が520万円未満(1人世帯の場合は383万円未満)の場合も含む。
※3 旧ただし書所得の合計額が210万円以下の場合も含む。
※4 後期については、年金収入+その他の合計所得金額が200万円未満(複数世帯の場合は320万円未満)の場合も含む

(出所:高額療養費制度の見直しについて|厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001393881.pdf)

 

また、収入の高い人は、それまでに社会保険料も多く納めている、ということになります。多くのお金を納めていた人が、いざ自分にセーフティネットが必要になった時には、お金をあまり納めていない人に比べて、何倍、何十倍という負担を強いられるのです。

 

これらのことを考えると、高額療養費制度は、とてもアンフェアな制度なのではないかと思わざるを得ません。

 

もし一般的な消費活動ならば、お金を多く払ったらよりよいサービスを受けられる、というのが世の中の道理です。しかし、ことこの社会保障制度においては多くのお金を納めた人であるほど、治療代としてお金を多く負担しなければいけない、となると、どうしても多くのお金を納めていた側に不満感が生まれます。

 

もし、多く納めている人も、収める額が少ない人も上限額を同じにしたのであれば、この不満感も消えるでしょう。そうはいっても、制度が維持できなくなったら元も子もありません。そういった矛盾を抱えた理論のもと、本制度は運用されているのです。

 

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