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「在宅診療クリニック」が抱える重要課題
施設の診療サービスの質に関する問題が難化している背景には、施設の診療報酬が年々削られているという事実があります。
ところが、施設で亡くなる人の数はこれから増加する見通しです。個人宅でお亡くなりになる方の割合は、2020年のデータで15.7%。高齢者向け施設で亡くなる人の割合は12.5％（介護医療院・介護老人保健施設3.3％＋老人ホーム9.2％）です。
両者ともにこの10年間、概して右肩上がりに上昇し続けています。一方で、病院で亡くなる人の数は、年々緩やかに減少し続けています。施設で亡くなる人の数は今後ますます増えていくでしょう。
私たちのクリニックでは、どちらかというと個人宅の患者さんに多くの時間を費やしています。
「最期の時まで自宅で過ごしたい」という強い思いを抱えている在宅の患者さんには、医療従事者側も心が動かされやすく、さまざまな感銘を受け、やりがいを感じやすいという側面があることは否定できません。さらに、患者さんのご家族と喜びや感動を共有し、直接感謝を伝えてもらえるという、医療従事者冥利に尽きる経験ができます。
1日の訪問人数から考えるに、診療時間は個人宅で、1回の訪問あたり15分前後の時間が割り振られます。
一方施設では、施設側の都合との兼ね合いから、終末期の患者さんを診察するといったケースを除くと1人あたりの時間は長くても5分程度です。「思い入れをもって診療したい」という気持ちと「決められたスケジュールどおりに終わらせなければならない」というルールの狭間で葛藤を抱えながら診療にあたるのが常です。
しかし、施設で亡くなる人が増えている現状を受けて、これまでの診察スタイルのままでいいのだろうか、という問題が湧き上がります。
実際に、施設の診療に関する診療報酬は年々削られてきています。このことは、施設における医療の未来を考えるとよくない傾向に思われますが、厚労省の決めることのため、今後見直される望みは薄いかもしれません。
そうしたなか「在宅医療を行う我々側が、安かろう、悪かろう、という姿勢は良くない」という基本に改めて立ち返る必要を感じています。今後は「施設での在宅医療にも力を入れ、施設入居者の患者さんも満足感のある、尊厳のある生活をし、きちんと死を迎えることができるようにしていく」ということが、これからの在宅診療クリニックの重要課題であり、施設側とも協力していくべきことだと考えます。
近年は先述のような、末期がんなどの終末期医療に重きを置いた施設が増えているように思います。そうした施設はスタッフ数も充実しており、私たちのような医師の訪問頻度も高いため、利用者とご家族の満足度はかなり高いと思います。ただし、費用は高額です。
こうした高額施設に比べて、一般的な施設での満足度は、残念ながらそこまで高くはなく、終末期のQOLがどうしても低くなってしまう、というのが現実です。
