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相場に順張りする「トレンド・フォロー戦略」
トレンド・フォロー戦略は「順張り」とも呼ばれる方法です。たとえば、好決算などポジティブ材料が公表されたときは多くの買いが集まります。つまり、買い注文が続くことによって株価の上昇トレンドが生まれ、このシグナルを機械的に読み取ってプログラムは買いの判断をします。反対にネガティブ材料が公表され下落基調が続いているとき、多くの投資家が投げ売りを行います。これに伴い株価の下落トレンドが生まれ、プログラムは売りの判断を行います。
こうした市場のトレンドをコンピュータープログラムの判断に基づいて、自動でマーケット分析を行うことができるのが、戦略の要となっています。たとえば、価格が割高になる局面では売り注文が買い注文を上回ります。このトレンド転換のタイミングでプログラムが自動で売建てを行います。そして売り尽くされ、市場では売り手が不在になったタイミングで上昇トレンドが見られ始めます。
この際、瞬時にトレンドの転換期を見極め、プログラムが自動で反対売買(買建て)をすることでリターンを獲得します。また、上昇トレンドに方向感が出始めたら、同様に自動で買建てを行います。そして買われすぎの局面まで近づいてきた辺りから売建てを行い、ポジションの解消に移ります。このように、トレンドの方向性が生じるたびに反対売買を自動で繰り返し、リターンを積み重ねる戦略です。
相場に逆張りする「カウンタートレンド戦略」
トレンド・フォロー以外にも、市場の短期的な動きを捉えるものをはじめ、さまざまな投資手法を採用する商品取引顧問業者(CTA)が存在します。カウンタートレンド戦略は相場の流れに逆らって売買する「逆張り」を基本とした運用手法です。
たとえば上昇相場で株価が上がっている局面では、短期で買われすぎと判断し、株価が上げ止まってからの反落を狙ってエントリーをします。市場でこれ以上買われなければ一転して売りに転じるため、いわゆるマーケットのトレンドに逆らってポジションを取ります。
このように相場の買われすぎのサインで売建て、売られすぎのサインで買建てのポジションを取る逆張りは、取引をするタイミングで予想どおりに反落・反発すれば、利益を最大限に狙える手法です。トレンド相場の終点を人の判断で見抜くのは難しいため、過去のヒストリカルデータを基に判断することで誤差を修正しながら、自動で取引を行います。こうしたカウンタートレンド戦略とトレンド・フォロー戦略を組み合わせることで、高いリターンを生み出すことができます。
プログラムで高速自動売買を繰り返す「高頻度取引(HFT)」
トレーディング技術の発展で、株式売買のスタイルは大きく変化しました。その一つが高頻度取引(HFT)です。コンピューターを用いて株価や出来高のデータを解析してテクニカルの動きを瞬時に判断し、プログラムに基づいて高速の自動売買を繰り返します。
この取引は人の目では見えないミリ秒(1000分の1)単位の取引頻度を極限まで増やすことによって、回転率を上げて高い収益を目指します。相場を見ていると、経済指標が発表された際にマーケットがすぐさま反応する光景に出会ったことがある人がいると思います。これは、あらかじめ設定されたプログラムに基づき、高速で売買を自動的に行っているためです。
また、現在はAIの発達により、過去の相場で効果的だった戦略について、バックテストを通じて成功確率を計算することができます。さらに過去のデータのみならず、リアルタイムで日中取引の情報を分析することができ、秒単位で市場の方向を予測することが可能です。AIの発達に伴い、市場を取り巻く膨大な情報を管理できるようになりました。効果的な市場の日中取引――最適なエントリーポイントやエグジットポイントを素早く特定することができます。
また、データを数学やコンピューターを駆使して数値化する金融工学を組み合わせる運用戦略があります。いわゆるクオンツはコンピュータープログラムと、量子力学をはじめとする物理学に応用される、高度な数学的手法を取引に活用するモデルのことです。過去の株価データや企業業績の推移などといった、数値化できる膨大な量のデータを系統的に高速で処理し、市場のアノマリーやトレンドを見つけます。
世界のヘッジファンドにおいては、こうしたクオンツモデルで定量的に判断し、数字で運用の手法を決定するファンドのニーズが広がっています。一方、高度な数学モデルが故に運用戦略の中身が理解され難く、ブラックボックスの体をなしています。
先に見たマネージド・フューチャーズもインターネット革命や技術の発展に伴い、従来の取引手法から逸脱した運用手法が可能となりました。また、投資対象は幅広く、世界の先物デリバティブ市場といった流動性の高い銘柄を対象にしています。株式や債券のみならず、原油や大豆、金、プラチナといったコモディティ価格に連動した先物や外国為替先物などニッチな商品への投資も可能です。
特に、昨今のインフレ下において商品先物市場は物価と大きく相関し、実物資産に連動した先物を持つことは有効な手段となります。また、ウクライナ侵攻などの有事が発生した際、資産の逃避先として金を買うことはリスクヘッジになり得ます。
こうした複数の資産を機械的に売買することで、資産の分散効果が期待できます。また、先物取引を含むデリバティブは、少額の証拠金を元に多額の取引を行うことができます。たとえば、日経225先物取引に必要な証拠金に対して、約18倍のレバレッジで運用と資金効率性の高い投資が実現できます。このように、クオンツ系ヘッジファンドに流入する投資資金は増加しており、技術的なプログラムツールを構築して実装する手間がかからなくなれば、コストの引き下げにもつながります。
グローバル・マクロやロング・ショート戦略は、不定期的な市場調査や分析といったファンドマネージャーのコストと比較して運用コストが抑えられるため、ニーズは強まっているといえます。
長谷川 建一
Wells Global Asset Management Limited, CEO最高経営責任者
国際金融ストラテジスト <在香港>
京都大学法学部卒・神戸大学経営学修士(MBA)