(※写真はイメージです/PIXTA)

株式や投資信託といった伝統的な資産運用よりも、さらに大きい収益を追求するオルタナティブ投資に関心が集まっています。そのうちのひとつであるヘッジファンド投資のうち、基本的な戦略である「ロング・ショート戦略」等についてみていきましょう。※本連載は、長谷川建一氏の著書『富裕層のためのオルタナティブ投資の教科書』(ゴールドオンライン新書)より一部を抜粋・編集したものです。

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相場環境に左右されないのが「ロング・ショート戦略」の魅力

ロング・ショート戦略は基本的に、流動性の高い株式を投資の対象とし、値上がりが期待できる割安銘柄を買って、同時に値下がりが予想される割高銘柄を空売りする方法です。たとえば、成長性のある銘柄をピックアップして安い値段で買い、高い値段で売ることでリターンを獲得します。一方、保有していない銘柄を借り入れることで売りから入り、買い戻すことで株式を返却する空売りを行います。株価が下がれば安い価格で買い戻すことができるため、高い値段で売り、安く買い叩くことができます。

 

つまり、将来的に株価が下落すると予想される銘柄をピックアップする必要があります。このようにロング・ショート戦略は非常にシンプルな手法です。この戦略の強みは相場環境に左右されず、上げ相場であっても、逆に下げ相場であってもリターンを獲得することができるという点です。

 

また、ロング・ショート戦略はポジション(保有銘柄)を相場環境によって随時変更することで、高いリターンを実現できるのも強みです。たとえば株価がブルマーケットの局面(相場の上昇が続いている市場)では、買い(ロング)のポジションを増やします。つまり、安い値段で株式のポジションを買い続けることで、ポートフォリオのロング比率を高め、値上がり益を狙います。一方、売り(ショート)のポジションはロング比率が高まっているため、ショートに損失が発生したとしても、ロングのリターンでカバーすることができます。

 

同様に、ベアマーケット(持続的に大幅な下落をしている市場)のときには、ショートのポジションを増やして、高い値段で株式のポジション売りを続けることで、ポートフォリオのショート比率を高め、値下がり益を狙います。ロングのポジションはショート比率が高まっているため、ロング分の損失においても、ショートで得た利益でカバーできるといった戦略です。

 

このようにロングとショートのポジションを組み合わせて、相場環境に応じて保有銘柄や比率を変えることでリターンを追求します。一般的に、証券取引所に上場している数十の株式銘柄をロングとしてポジションを取ります。ショートのポジションでは、株式を信用取引――つまり他の所有者から借りてきた状態で空売りします。そのため、基本的に空売りの対象となるのは、市場の流動性が高い大型銘柄や日経225先物といった先物指数が利用されるケースです。

 

もちろん、ロング・ショート戦略についても、レバレッジをかけることでリターンを高めるということが可能です。最も有名なのが「130:30戦略」と呼ばれ、運用資産の130%をロング、30%をショートのポジションを取る運用戦略です。これは100の資金に対して30の株式を借り入れ、空売りを行います。これにより30の新たな資金を得ることができ、当初の資金と合わせると130のロングポジションを取ることになります。

 

そのため、当初の100の資金と合わせて160(130:30=ロング:ショート)のエクスポージャー、つまり1.6倍のポジションを取ることができます。このような戦略であれば過度に空売りを行うことなく、ポートフォリオの分散を図ることができます。これにより超過リターンの追求と効率的な運用を目指すことができるのです。

ロング・ショート戦略で使われる「ボトムアップアプローチ」

ロング・ショート戦略では「トップダウンアプローチ」に加え、「ボトムアップアプローチ」という方法が活用されます。

 

「ボトムアップアプローチ」の特徴は、マクロ経済には着目せず、個別企業を分析し、ポートフォリオを構築する点です。ここでいう個別企業とは、株式市場に上場する銘柄を対象とし、それぞれの財務状況を1社ずつ細やかに分析しながら、投資対象をピックアップしていきます。株価が割安な銘柄をピックアップしていく「バリュー型」や、成長率の高い企業をピックアップしていく「グロース型」など、一定の基準に基づいて個別企業を1社ずつ選定します。選定はある一定の基準に基づいて、上場するすべての銘柄から行います。

 

次に、企業の財務分析やファンダメンタル分析といった、投資対象を一定の基準からスクリーニングしてある程度絞り込みます。その後、最終的にファンドマネージャーが実際に企業訪問を行い、社長や財務担当者と面談して企業の成長性を調査するケースもあります。また、証券会社のアナリストレポート調査や独自調査を行うことで、最終的に数十の株式銘柄に絞って投資を行います。株式へ投資した後も、四半期毎に決算を評価し、リバランスの是非を検討します。

 

また、同時に次の投資候補銘柄の選定も行うため、常に数百の銘柄を追い続けなければなりません。実際、ある欧州のロング・ショート戦略を取るヘッジファンドは、四半期毎に決算データの全データを入力し、株式成長モデルを算出しています。一方で、数字では見えない業界動向などを把握する必要があります。個別企業の増益予想は株価にも反映され、マーケットが大きく下がるような局面でも株価は堅調に推移します。企業の成長が見込めるグロース銘柄や市場の取引価格から割安と判断されるバリュー銘柄をロングポジション、先物でヘッジをかけることで下落相場でもリターンを得られる仕組みです。

 

この手法は日本株、香港株、米国株といったように、一つのカントリーでロング・ショートのポジションを取るのが一般的です。しかし最近では、クロスボーダーの戦略を取るロング・ショートや、商社株、自動車株といったセクターや企業規模に焦点を当てる戦略との組み合わせなどが数多あります。ロング・ショート戦略には、マクロ経済を軸とする「トップダウンアプローチ」と比べて、一つひとつの個別企業に注目して投資するという醍醐味があります。

コンピュータープログラムで判断「マネージド・フューチャーズ戦略」

次にご紹介するのが、マネージド・フューチャーズ戦略です。この戦略を取るヘッジファンドは、商品取引顧問業者(CTA)と呼ばれ、先物取引やデリバティブを用いて相場の上昇時には買建てを行い、反対に下落時には売建てを行うことでリターンを追求します。注意したいのが、売建ての場合でも空売りのように事前に株式を借り入れる必要がない点です。つまり、先物は買い戻すことが前提で取引が行われているため、直ぐに売りの取引が可能です。

 

デリバティブは通貨、債券、株式などの原資産から派生した商品のことを指し、買いと売り双方のポジションで取引が可能です。すなわち、買建てと売建ての差額で決済を行い、短期的に売買を完結できるため、相場の上がり下がりのどちらの局面からでも利益を狙えるところが強みです。

 

この戦略は定量型に基づく戦略であり、コンピュータープログラムにより投資判断がなされます。具体的に、テクニカルもしくはファンダメンタル分析、株価推移、取引の出来高など市場のデータを基に値動きを分析します。つまり、過去のヒストリカルデータに基づき、リスク・ファクターの変動パターンが、いずれも同じ確率で起きるだろうという仮定に基づく考え方です。

 

 

長谷川 建一
Wells Global Asset Management Limited, CEO最高経営責任者
国際金融ストラテジスト <在香港>
京都大学法学部卒・神戸大学経営学修士(MBA)

※本連載は、長谷川建一氏の著書『富裕層のためのオルタナティブ投資の教科書』(ゴールドオンライン新書)より一部を抜粋・編集したものです。

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