「財産はどこにあるか」&「相続人・被相続人がどこに何年住んでいるか」の二つがポイント
義雅さんの質問に対する回答は下記
「日本の相続税がかかるかどうかは、基本的に『財産はどこにあるか』と『相続人・被相続人がどこに何年住んでいるか』の二つがポイントになります。
義雅さんご夫婦は、すでに移住されて、25年とのこと。日本に不動産や預金がなければ、日本の相続税は課税されません。しかし、相続になる時期に、息子さんが日本在住であれば、日本の相続税が課税されることになります。現地住まいのままであれば、日本の税法は適用されません。」
財産は日本にはなく、暮らしている現地にあるとすれば、それは現状維持でいいのですが、日本の相続税を課税されないために気をつけることは、相続人の息子が日本で生活をしないことが要件になるということです。
義雅さんのように、日本人であっても、家族全員が海外在住の場合で、財産も日本にないとなれば、日本の相続税は課税されません。義雅さんも一安心されたようです。
日本人が海外不動産を所有する場合は?
義雅さんのように、日本人でも家族全員が海外在住の場合は、住んでいる現地の税法に従って相続税が課税されますので、シンプルだと言えます。
しかし、最近では海外不動産の人気が高く、不動産投資として海外の賃貸物件を所有されている方が増えています。そうした方の相続の場合は、どうなるのでしょうか?
日本に住む方が亡くなると、相続税の申告は日本で行いますが、海外の財産がある場合、そちらでも申告・納税が必要になります。
日本の不動産は評価が下げられる
「現金」は額面どおりの価値ですので、日本も海外も預金であれば、大きな違いはないことでしょう。けれども、不動産の評価が決定的に違います。
日本の相続の場合、土地の評価は、相続税路線価方式で評価をしますが、時価の8割程度だとされています。これだけでも評価が下がるのです。建物は固定資産税評価で、時価の半分以下の評価となっています。
さらに利用の仕方で評価が変わります。自宅や貸し駐車場など自分で使っている場合は「自用地」として100%評価をします。土地を貸している「貸宅地」の場合は、土地は自分のものでも、建物は借地人が建てており、すぐに明け渡してもらうというわけにはいきませんので、自用地評価より借地人の持っている借地権割合を引いて評価をします。借地権割合は地域により定められており、30~90%です。
自分の土地に、自分名義で、賃貸アパートやマンションを建てている場合、その土地は「貸家建付地」となり、自用地評価より借地権割合と借家権割合を掛けた分を引きます。
自分の土地に子供などの親族が建物を建てて住んでいることがありますが、地代をもらっていない場合は、「使用貸借」となり、「自用地」と同様の100%評価になります。
建物は固定資産税評価で評価をしますが、実際にかかった建築費の時価の40~60%の評価となります。それを貸していれば、借家権を引いた70%で評価をするようになります。
このように日本の場合は、な評価の仕方の違いをうまく利用して、評価を下げて節税を引き出すのです。
海外の不動産の評価は時価!日本とは違う
日本の不動産と違って、海外の不動産の場合は、流通している価格、いわゆる売ったらいくらという「時価」で評価します。不動産がある地域にもよりますが、買った価格よりも値上がりしていることもあるでしょうし、日本のように貸家評価にならない分、評価も高く、相続税もかかります。
海外の不動産は賃貸事業をするうえで投資に対して得られる家賃が多く、日本の不動産よりも利回りがいいとされますが、相続税の節税効果にはつながらないのです。
フランスにあるアパルトマンは時価評価
千里さん(55歳)の母親(80代)は、画家で、パリを拠点に生活をしており、そのままパリで亡くなりました。一人娘の千里さんは日本住まいです。父親はすでに亡くなっているので、相続人は千里さん一人です。
母親の財産はパリのアパルトマンと、日本に住んでいた当時に父親が買ったマンションがあり、帰ってきたときの住まいにしています。他にパリにある預金です。日本のマンションは時価5,000万円程ですが、相続評価にすると1,500万円ほどになります。日本にも3,000万円ほどの預金があります。
パリのアパルトマンは市内の中心街からほど近いところにあり、時価は1億円。千里さんは母親が残してくれたアパルトマンですのでしばらく住んでみたいと思い、売るつもりはないのですが、相続評価をするためには、現地の専門家に評価をしてもらい、相続税の申告と納税をします。時価評価になりますので、日本の不動産よりも納税は多くなりました。また、評価や書類の作成にも時間がかかりました。千里さんはパリの手続きのめどがついたところで、日本の財産についても相続税の申告をすることにしました。
日本の不動産であれば購入した時価の半分以下の評価で申告ができるのですが、現地の評価の仕方に従うことになります。
相続実務士のアドバイス
●できる対策
被相続人と相続人はできれば同国で生活する。
節税対策は海外不動産よりも日本の不動産にする。
●注意ポイント
相続税は財産のある国で納税するため、海外不動産があると手続きに時間がかかり、節税効果はありません。相続対策にしたい場合は、日本の不動産が有利です。
曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp)認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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