「母の思いを形にしておけばよかった」92歳の母親を支えてきた巻子さんは、遺言書を残せなかったことを悔やみました。母が元気なうちに準備を進めていたものの、認知症の進行によって手遅れに。家族の意向を尊重しつつ、円満に遺産を引き継ぐにはどうすればよかったのか?相続実務士の曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、遺言書の重要性と適切な準備について解説します。
92歳の母親は、要介護4
巻子さん(70歳)の母親は92歳。10年前に父親が亡くなってからは自宅で一人暮らしをしています。子供は巻子さんと弟の二人で、巻子さんは他県に嫁いでいます。
弟は亡くなった父親が始めた電器店を継いでおり、毎日、実家にある店舗に来て仕事をしています。弟とは同居しておらず、すぐ近くで自分の家を持ち、妻子と暮らしています。
母親は週に2回、デイサービスに出かけて、自宅にいるときはヘルパーさんに来てもらっています。父親が亡くなってからしばらくは元気で、一人暮らしにも全く不自由はありませんでした。
しかし、程なく要支援となり、骨折して入院した頃から要介護4へと進んでしまいました。退院して自宅での生活に戻ったものの、夜間に一人では不安が出てきました。
近くの息子よりも遠くの娘
弟は長男ですので、本来、お店もある実家に同居するのが地域の風習です。結婚当初は当然として同居でスタートしましたが、弟の妻が両親と折り合いが悪く、家を出たのでした。そうしたいきさつがあり、現在も弟の妻はほとんど実家に顔を見せません。
母親もそれでよしと思っているようです。それからは、母親は何事も離れた土地に住む巻子さんを頼りにしてきました。おかげで巻子さんは弟家族に気兼ねなく、母親の介護として実家に帰ってくることができるのですが、母親のためには地元にいる弟夫婦にもう少し母親の面倒を見てもらえたらという気持ちになることもあるとこぼしました。
遺言書を残しておきたい
母親常々、自分の財産は巻子さんに渡すと言っています。母親の財産は自宅と預金です。自宅は地方にあるため、150坪あっても2,000万円ほどのようです。
預金は父親が残したものと母親の年金で、やはり2,000万円ほどあります。弟の感覚では、巻子さんは生活に困る要素がないので、母親の財産はいらないだろうと思っているフシがあります。しかし、巻子さんには母親の意思を尊重して、弟夫婦に見てもらいたいという気持ちがあります。
そこで、遺言書を作るにはどうすればいいか、相談にこられました。公正証書がおすすめですが、母親の年代では馴染みがないため、巻子さんが母親の意向を聞いて、見本の下書きをし、 母親に自筆で書いてもらおうということでした。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
一般社団法人相続実務協会 代表理事
一般社団法人首都圏不動産共創協会 理事
一般社団法人不動産女性塾 理事
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書86冊累計81万部、TV・ラジオ出演358回、新聞・雑誌掲載1092回、セミナー登壇677回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2025年版 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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