複雑化するアメリカのハラスメント問題の税務事情…受け取った「ハラスメント和解金」で課税される人とされない人の決定的な差【国際税理士が解説】

複雑化するアメリカのハラスメント問題の税務事情…受け取った「ハラスメント和解金」で課税される人とされない人の決定的な差【国際税理士が解説】
(画像はイメージです/PIXTA)

日本では80年代ごろに最初にセクハラの裁判が起こったといわれています。あれから時代が進み最近ではパワハラやカスハラなど多種多様なハラスメント問題が浮上しています。これらの問題は最終的に和解金という形で決着がつきますが、日本では意識されないだけで実は税法上の取り決めが絡んでいます。カリフォルニア州にオフィスを構える国際税務のプロフェッショナルが解説します。

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和解金の課税問題が浮上

セクハラ、パワハラ、カスハラなど、昨今注目されるハラスメント問題。日本でも有名人がセクハラで訴えられるなど、裁判に関するニュースがたびたび報じられています。

 

アメリカでも、2017年にケーブルチャンネル「Food Network」で活躍していた“米国版・料理の鉄人”ことマリオ・フランチェスコ・バターリ氏が、セクハラ問題で話題となりました。彼は複数のレストランを所有しており、共同経営者のジョー・バスティアニッチ氏と共に、元従業員20名から訴えられました。この訴訟は2021年、60万ドルの和解金で決着しています。

 

セクハラをはじめとしたハラスメント訴訟では、和解金の支払いが発生することが多くあります。アメリカでは、これに関して税法上の取り決めが存在し、さまざまな課税上の問題が浮上しています。

アメリカでは受け取った和解金も課税対象になる!?

2004年、アメリカ議会は、セクハラなどの雇用関係訴訟における弁護士費用を所得控除できると定めました。しかし、2017年12月のトランプ政権による税制改革で、この規定は廃止されました。


この結果、和解金や弁護士費用は、加害者側・被害者側のいずれにとっても、原則として経費扱いができなくなったのです。一見すると、加害者に対して税法上の制裁を科すという点で妥当にも思えますが、被害者にとっても弁護士費用の控除ができないという不利益が生じています。加えて、和解金も課税対象となり、確定申告で申告しなければならなくなりました。

和解金が「非課税」となる条件とは?

ここで押さえておきたいのが、アメリカでは「身体的な被害」がある場合に限り、和解金は非課税になるという点です。この点は日本でも同様ですが、非課税の範囲に違いがあります。

アメリカにおけるセクハラ和解金の課税可否(概要)


アメリカでは、たとえセクハラによって心理的なストレスを受けたとしても、身体的接触がなければ非課税とはなりません。一方で、日本では身体的な接触がなくても、精神的苦痛に対する賠償は非課税扱いとなるケースがあります。

 

アメリカの税務当局(IRS)が重視するのは、「被害の経緯」と「因果関係の順序」です。

 

・セクハラによってまず身体的な病気を発症した

・結果として感情的・心理的なストレスが発生した

 

上記の流れであれば、和解金は非課税になる可能性があります。逆に、「精神的苦痛のみ」の場合は、原則として課税対象となります。

 

つまり、セクハラによって身体的な被害があった、あるいは身体的な不調が引き起こされ、その結果感情的なストレスが発生したというストーリーが重要なのです。

和解契約書の記述内容がカギ

和解金の非課税を主張するためには、和解契約書の内容と記述の順序が非常に重要です。IRSは和解契約書の記述に必ずしも従うわけではありませんが、合理的で一貫した内容であれば、非課税の扱いが認められる可能性があります。


また、和解金支払いの際に発行されるForm 1099という税務書類との整合性も重要です。たとえば、成功報酬型の弁護士を雇った場合、和解金の40%が弁護士費用であっても、全額が受け取った収入として扱われるという判例があります。そのため、弁護士費用が経費であることを示すような契約書の工夫が必要です。


このような工夫は、セクハラに限らず他のハラスメントにも通じるものです。たとえば、「仕事のストレスが心臓発作を引き起こした」「既存の多発性硬化症を悪化させた」といった身体的な障害や症状を和解契約書に記述する例も見られます。こうした記述が、課税回避の根拠として意識されているのです。

日本でも将来的に意識が必要に?

本稿ではアメリカでセクハラ訴訟における和解金を受け取る際の注意点を解説しました。先に書いたように日本で身体的なコンタクトの有無は関係なく非課税であるため、このような工夫についてはあまり意識されないかもしれません。

 

しかし今後、ハラスメントの多様化・増加に伴い、税法上の取り扱いが議論される可能性があります。アメリカのように、和解契約書の内容や税務上の工夫が求められる時代が、日本にも訪れるかもしれません。

 

税理士法人奥村会計事務所 代表

奥村眞吾

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