ニクソンの二の舞を演じるか…今年2月、確定申告シーズンにIRS職員「大量解雇」、トランプ政権の“異次元の一手”にアメリカメディアは「悪手」との評価も【税理士が解説】

ニクソンの二の舞を演じるか…今年2月、確定申告シーズンにIRS職員「大量解雇」、トランプ政権の“異次元の一手”にアメリカメディアは「悪手」との評価も【税理士が解説】
(画像はイメージです/PIXTA)

バイデン政権時代、インフレ抑制法によって大幅な予算が割り当てられたIRS。前政権の政策を真っ向から否定する姿勢のトランプ政権がついにIRSに手を入れました。確定申告シーズンが始まってすぐに行われた職員の大幅レイオフ。トランプ政権下でIRSはどこへ向かうのでしょうか。カリフォルニア州にオフィスを構える国際税務のプロフェッショナルが解説します。

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止まらないトランプ政権の改革…IRS職員が「大幅削減」

2月末、IRSの試用期間中の税務職員6,000人以上が解雇されました。Forbesによると、そのうち3,500人以上が中小企業担当職員とのことです。これはトランプ氏が掲げた公約の1つである「連邦政府の縮小」が背景にあります。

 

バイデン政権のインフレ抑制法によって、予算が増強されていたIRSですが、今回の方向転換によりサービスの質が低下することは避けられないでしょう。インフレ抑制法によって、人員の増加とITの導入が進み、サービスの向上が期待されていました。それでもIRSの現状は「10回電話をかけて2〜3回つながるかどうか」というレベルだったという印象です。

 

今回の大幅な人員削減により、今後IRSへの問い合わせがまったくつながらない事態も想定されます。

国境に飛ばされるIRS職員?

今後、IRS職員は半数まで削減されるとの話も出ています。本当ならばIRSは機能不全に陥ることは避けられませんが、現時点で真偽は定かではありません。トランプ政権下のIRSはどこへ向かうのでしょうか? トランプ政権は一部の職員には国境に行ってもらう(国土安全保障省)としています。

 

日本の税務機関とは異なり、IRSには犯罪取締課が存在し、3,000人以上の職員が配備されています。彼らは資金洗浄絡みの脱税犯を取り締まっており、その対象にはアル・カポネのような犯罪者も含まれます。そのため、IRS職員の一部には銃の携帯が許可されています。

 

IRS職員が不法移民の取り締まりを行うことになるとは、誰も予想していなかったでしょう。

止まらないIRSへの干渉…

トランプ政権のIRSへの干渉はまだ続きます。イーロン・マスク氏率いる政府効率化省はIRSの根幹となるIntegrated Data Retrieval System(IDRS)へのアクセスを求めており、財務省を含む多くの議員によって反対されています。

 

IDRSにはマスク氏の競争相手となる法人の情報も含まれており、政治的利用の可能性や、海外のハッカーによる個人情報の漏洩リスクが懸念されています。IDRSは非常に機密性の高いデータベースであり、アクセスできる職員も限られています。

IRSへの干渉は「悪手」であることを歴史が示している

IRSを政治的に利用しようとした政権は、今回が初めてではありません。1970年代初頭のニクソン大統領(Richard Milhous Nixon)は、政敵の確定申告書を探し出し、攻撃の材料としようとしました。一方で、自分や友人たちの確定申告書は税務署が守ると発言しました。そのために自身に忠実な人物だけを税務署長に据えようとしてきましたが、そのようなモラルに欠けた人物はおらず、何人もの税務署長が彼によって解任されました。

 

最終的には1973年、ニクソン自身が標的となり、IRS内部から確定申告書が流出。476,431ドルもの税金が未納であることが発覚し、政治的ダメージを受けることになります。そして翌年1974年のウォーターゲート事件を経て失脚しました。

 

この事件を機に、1976年以降は行政府が確定申告書へのアクセスをコントロールできなくなりました(1924年以降、確定申告書はパブリックレコードとして扱われていました)。

 

このような歴史的背景を経て、機密に扱われてきた確定申告書に手を伸ばすトランプ政権。アメリカメディアでは政治生命にかかわるのではないかと懸念する声が上がっています。

 

税理士法人奥村会計事務所 代表

奥村眞吾

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