(写真はイメージです/PIXTA)

大きな災害や事故が発生した際に多額の保険金を支払う組織として知られる「ロイズ」は、一般的な保険会社とは異なり、独自の仕組みを持つ集合体です。では、なぜこの組織が「ロイズ」と呼ばれ、このような形態をとっているのでしょうか。ニッセイ基礎研究所の磯部広貴氏が詳しく解説します。

英国のコーヒーハウス

東アフリカを原産地とするコーヒーはイスラム世界から欧州に入ってきた。英国のロンドンに初めてコーヒーハウスが建てられたのは1652年であり、この点に異説はないようだ。ピューリタン革命で国王が斬首されてから3年後、共和制の時代である。17世紀の英国はこの後、王政復古から名誉革命に向かっていく。



ロンドンに登場したコーヒーハウスでは、既に存在していたパブとの競合を避けるためアルコールと食事は供されないものの、その代わりに入場料は安かった。入れるのは男性だけであったが、入場後は中でコーヒー代を支払うだけで長く居続けることができた。市民の住宅事情は悪く自宅に大勢が集まることは困難であった時代、異国情緒に溢れたコーヒーというノンアルコール飲料を楽しむばかりでなく、談論風発の場を提供したことでコーヒーハウスは急増していった。特に1666年のロンドン大火の後、コーヒーハウスが市民の集まる場所となって商業の復興に大きく貢献した。

 

17世紀末のロンドンでは男性100人に1軒の割合でコーヒーハウスがあった※5とされる。ピューリタンがアルコールを忌避する時勢にも適合※6し、コーヒーハウスが英国の近代市民社会形成のインフラになったとも言えよう。

 

資料:Chat‐GPTにより筆者作成。当時のコーヒーカップには取っ手と受け皿はなかったが再現できず。
【図表】17世紀の英国コーヒーハウスのイメージ 資料:Chat‐GPTにより筆者作成。当時のコーヒーカップには取っ手と受け皿はなかったが再現できず。

 

人が集まりやすいとなると本来の機能以外の役割も自然と求められてくる。現在のわが国において、コンビニが物を買うに止まらず、多様な目的で使われるようになったことと同様であろう。

 

当時の英国には官営郵便制度があったが信頼度は高くなかった。そこでコーヒーハウスを集積所とする私営郵便制度が生み出され、その廃業の後、官営郵便制度でもコーヒーハウスが採用されていった。

 

また、マスメディアの発展への寄与も多大であった。既に新聞と呼べる印刷物はあり、それらはコーヒーハウスに常備されて自由に閲覧された。まだ識字率が低かった時代、文字を読めない人は読める人に読み上げてもらって内容を把握した。当初は新聞との境界が曖昧であったものの、やがて雑誌もコーヒーハウスから生まれてくる。逆に記者はコーヒーハウスで得た情報を基に記事を新聞や雑誌に掲載していく。

 

時間が経つとコーヒーハウスにもそれぞれの特徴が生まれてくる。「このコーヒーハウスには必ずあの人がいる」といった形で、共通の思想や目的を持つ人たちが決まったコーヒーハウスに集まるようになった。

 

18世紀の半ば頃からコーヒーハウスは減少していくのだが、その要因の一つとして、各店ごとの客層が固まりクラブと化していったことが挙げられる。入場料さえ払えば誰でも入れたコーヒーハウス時代とは打って変わり、特定のメンバーだけの閉鎖的空間としてアルコールや食事も供するようになった。その頃には市民の家も客を呼べるほどに整い、コーヒーハウスに行かずとも新聞は読めたようだ。

 

※5 小林章夫「図説ロンドン都市物語 パブとコーヒーハウス」(1998年、河出書房新社)50頁「こうしてロンドンのコーヒーハウスは、17世紀末には2000軒とも3000軒ともいわれる数に達したのである。人口60万、女子供を除くと、100人に1軒あたりの密度で店があったことになる」。
※6 臼井隆一郎「コーヒーが廻り世界史が廻る 近代市民社会の黒い血液」(1992年、中公新書)70頁「ピューリタン革命とそれに続く王政復古の時代のイギリスにおいて確立されたコーヒー・ハウスという近代市民社会の公共的制度と、コーヒーという商品イメージは、ソウバー・ピューリタン(謹厳なるピューリタン)のイデオロギーとの内的関連抜きにはおよそ考えることができない」。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2025年2月19日に公開したレポートを転載したものです。

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