(写真はイメージです/PIXTA)

タイムパフォーマンスという考え方は、私たちの消費行動を大きく変化させました。セイコー時間白書2024の調査では、71.5%の人が「無駄な時間を過ごしたくない」と回答。私たちはなぜここまで効率を求めるのでしょうか。 本稿では、ニッセイ基礎研究所の廣瀬涼氏が、タイパ消費の実態と、その背景について詳しく解説します。

「損」をしたくない

関西学院大学・鈴木謙介ゼミの同調査では、Z世代の消費におけるリスクや失敗に関しても聞いているが、リスクに関する問いを見てみると、「購入前に、その商品が自分に合わなかった場合のリスクを考慮する」は、53.2%で半数を超えている。

失敗に関する問いを見ると、「購入後に安い価格で同じ商品を見つけたら、失敗したと思う」は62.5%、「事前に調べた情報で期待していたほどの商品ではなかった」は52.2%、「購入後に、より自分に合っていそうな別の選択肢を見つけた」は51.0%となっている。また、面白いのが、「周囲の友人にSNS等で商品を共有したら、予想よりも反応が悪かった」が29.3%と、3割近くが他人からの評価が、消費が失敗だったと判断する要因になっていると回答しているのだ。

ここまで紹介した3つのケースや各所の調査から、若者の消費に失敗したくないという心理は、従来の費用対効果に見合わないという視点に加えて、その消費を行ったことで発生する他の消費機会での損失、自分は一切関与していなくとも他人が得をしている状態など、消費によって生まれる負の影響により左右されており、この「損(マイナス)」を回避する事が消費を決定づける大きな要因になっていると考える。

脱タイパの背景

そこまで消費に失敗することを避けようとするのには3つの理由が挙げられる。まず、所得の問題だ。東京私大教連「2021年度私立大学新入生の家計負担調査※12」の「月平均仕送り額から家賃を除いた生活費」を見ると、1990年73,800円だった仕送りは、2021年の調査では19,500円と激減しており、一日当たり650円の計算だ。

 

「令和2年度学生生活調査報告」によれば大学生のアルバイト収入は1ヵ月あたり平均約30,000円であり、アルバイトをしている者でも仕送りの平均と合わせても5万円前後という水準だ。この金額から生活費を捻出し、自分の趣味などにも消費しなくてはならないのは容易ではないだろう。

 

一方で、2020年8月13日にオンラインで開催された“Intel Architecture Day 2020”で公開された「人類が生み出すデジタルデータ量の推移」※13をみると、2020年、世界のデジタルデータの年間生成量は50ZB(ゼダバイト)を超え、2025年には175ZBに到達すると予想されている。我々の馴染み深いGB(ギガバイト)で換算すると1ZB=1兆GBとなり175ZBが途方もない数字であることがわかる。

 

当然、日々のエンタメから最新スイーツも含めて昔に比べて圧倒的に情報量が増えていることになるが、それは興味を持つモノ(消費したいモノ)が必然的に増えるということを意味しており、使えるお金は有限なのに消費したいモノが溢れている状態になってしまっているのである。

 

自由に使えるお金が限られているという事は、無駄な支出をしたくないという事でもある。また、SNSなど情報ソースとして参照できるものも多く、豊富な情報収集が可能ということは、調べれば何かしらの答えがすぐわかる時代であるともいえる。

 

今やYouTubeのコメント欄などはそのような他人にとっての答えになるような情報で溢れている。さらに、プレゼントの評価にしても、自分の消費したモノの評価にしても、周りがその良し悪しを判断する機会も多く、周りの目を気にするという事は、消費結果を否定されたくない、という意識に繋がることになる。

 

つまり、「無駄な支出をしたくない」は「支出先を間違えたくない」、「調べれば答えがすぐわかる時代」は「選択(答え)を間違えたくない」、「消費結果を否定されたくない」は「間違っていると思われたくない」と言えるのではないだろうか。消費に失敗したくないということは、「消費を間違えたくない※14」という事でもあるのだ。

 

出所:筆者作成
[図表3]「消費を失敗したくない」ということは「消費を間違えたくない」という事 出所:筆者作成

 

情報の波が切れない中では、興味をひかれる(消費したい)対象に次々と遭遇してしまうが、時間やお金が有限であるため全部を消費することはできない。しかも、「リキッド消費※15」と呼ばれるように、情報の旬やトレンドが移り変わるスピードは目まぐるしく、消費者自身の興味も流動する中で、興味を維持し続けられるモノ、実際に消費行動に移されるものは少ない。

 

リソースに限界があるということになるとますます消費に失敗できない、という意識が強くなるため、SNSに投稿されている他人の消費レビューを参照するという行動が促されていく。他人のレビューは他人の消費結果=他人の消費体験の疑似体験につながり、その疑似体験を通して、自分がわざわざ消費をする必要があるか判断していると言えるだろう。

 

※12 http://tfpu.or.jp/wp-content/uploads/2022/04/2021kakeifutan20220406.pdf
※13 https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2102/16/news047_2.html
※14 SHIBUYA109 lab.所長の長田麻衣も若者消費を表す4つのキーワードの1つとして、「間違えたくない消費」を挙げている。ちなみに4つとして(1)体験消費・参加型消費、(2)間違えたくない消費、(3)メリハリ消費、(4)応援消費・親近感消費を挙げている。(https://webtan.impress.co.jp/e/2021/09/09/41056
※15 久保田進彦(2019)「消費環境の変化とリキッド消費の広がり― デジタル社会におけるブランド戦略にむけた基盤的検討」に準拠するのならば、リキッド消費は(1)短命性:価値が文脈特定的となり寿命が短くなる、(2)アクセス・ベース:所有権の移転が生じない取引によって構成される商品・サービスが増える、(3)脱物質的:同じ水準の機能・効能を得るために、物質をより少なく(あるいはまったく)使用しなくなる傾向が見られる、の3つの性質から定義される。リキッドが流動性という意味を擁しており、情報の多さが我々の消費対象に対する興味の移り変わりの速さや、サブスクやデジタルデータへのアクセス(消費)が所有を必ずしも必要とさせなくなったことで、軽やかなライフスタイルを享受できたり、コスパ良く商品やサービスの機能・効能を受容できるようになったことを指している。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2025年2月17日に公開したレポートを転載したものです。

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