タイの製造業が直面する危機
タイでは近年、工場閉鎖が相次いでおり、これが深刻な危機を招いている。
その要因の一つとして、中国からの安価な製品の流入が挙げられる。この傾向は今年も続くと予測されており、国内の製造業が回復不能な衰退に陥る可能性や、それに伴うタイの労働者への影響が懸念されている。
工場閉鎖の加速
タイのカシコン銀行傘下のシンクタンク、カシコン・リサーチセンターによると、2023年は2年連続で月100件以上の工場が閉鎖された。特に影響を受けているのは、中小企業(SME)が運営する小規模工場である。
2023年から2024年にかけて、合計3,045の工場が閉鎖されたが、これは2021年から2022年の1,818件と比べて大幅な増加だ。一方で、2023年から2024年に新規開業した工場は4,302件だったが、2021年から2022年の4,855件より減少している。その結果、工場の純増数(新規開業から閉鎖数を差し引いた数)は大きく落ち込んだ。2023年から2024年の純増数は月25件に過ぎず、2021年から2022年の127件と比較しても顕著な減少が見られる。
このデータは、タイの製造業が直面する課題の深刻さを浮き彫りにしており、中小企業の支援や外国製品との競争に対する戦略が必要であることを示している。
経済専門家の懸念
タイ金融大手サイアム商業銀行(SCB)傘下にあるイノベストX証券の経済調査部長であるピヤサック・マナソン氏は、工場閉鎖の波に強い懸念を示している。「タイの競争力は低下傾向にあり、消費も低迷しています。その証拠として、自動車や住宅といった大型商品の販売が伸び悩んでいます」と彼は指摘する。
政府は1万タイ・バーツ(約4万5,000円)の現金給付策などの景気刺激策を講じたが、多くの低所得者はこの資金を消費に回さず、借金返済に充てているため、経済活性化にはつながっていない。
ピヤサック氏は、タイの製造業が中国の安価な輸入品と競争するのは厳しいと考えている。中国政府は製造業に対し、低利融資(ソフトローン)を提供するなど多くの支援を行っており、結果的にタイ企業よりも資金調達コストが低くなっている。
特に、太陽光パネル、電気自動車、鉄鋼といった分野の中国企業は競争力が高い。一方、タイの多くの中小企業は銀行融資の獲得に苦戦している。ピヤサック氏によると、タイ中央銀行は商業銀行に対し、厳格な融資基準を課しており、これが資金調達の障害になっているという。また、中央銀行は家計や中小企業の債務削減を重視しており、その影響で貸し出しが抑制されている。
