行き過ぎた「お客様ファースト」
同様に、次のような発言にも、行き過ぎを感じてしまうに違いない(鈴木敏文『売る力――心をつかむ仕事術』文春新書、2013年)。
わたしは毎日昼、セブン‐イレブンの弁当や惣菜類の新製品について役員試食を行いますが、休日も午前中スポーツジムで汗を流すと、帰る途中に自宅近くのセブン‐イレブンに寄って、弁当などを購入し、家で妻と一緒に食べます。もし、レベルが落ちていておいしくなければ、そこそこ売れている商品であっても、お客様に提供すべきでないと、即刻、店頭から撤去の指示を出します。
北は北海道から南は九州まで、1万5千店を超えるすべての店頭から、本部の負担で20分以内で撤去させます。/撤去すれば何千万円もの膨大なロスが生まれます。「いま店頭に並んでいる分は仕方ないから、そのまま販売して、明日会社に出てから再検討の指示を出そう」と考えることもできます。それが普通でしょう。しかし、これは売り手の都合を優先した考え方です。
このエピソードでは、鈴木個人がおいしく感じないことと、「そこそこ売れている」事実との比較衡量の妥当性も問われようが、いずれにしても、お客様の立場自体の望ましさを問う発想は乏しい。
翻って、セブン‐イレブンを初めとして、大手コンビニチェーン各社には、本部と加盟店オーナーとの間に、さまざまな軋轢を抱えてきた歴史がある(満薗勇『商店街はいま必要なのか――「日本型流通」の近現代史』講談社現代新書、2015年、木村義和『コンビニの闇』ワニブックスPLUS新書、2020年)。
たとえば、特定地域への集中的な出店で高い地域内シェアを狙うドミナント戦略は、本部にとってはチェーン全体の収益向上につながるが、個々の加盟店から見ると競合による利益の減少を招いてしまう。粗利益分配方式のもとでも、本部と加盟店の利害は完全に一致することはないのである。
