「共に成長する」組織づくり
しかし、新卒社員もすぐに戦力になるわけではなく、製菓学校を卒業していてもお客様に提供できる技術にはまだまだほど遠いレベルであることは事実です。また、新卒社員は社会人としての経験もなく、サボり癖や責任感の欠如など、学生気分が抜けない面もあるため、プロになるためには意識改革などに時間を要します。
慢性的に人材不足が続く洋菓子業界では、新卒社員のこうした教育を行う人材や時間がないため、新卒採用や教育なんてできっこないとあきらめている経営者が多くいます。私たちも従業員数50人程度の中小企業です。それでも、毎年少ないながらも新卒採用を続けて、定着に結びつけています。
経営者であれば、「こういう店舗にしたい」「こういう事業を展開していきたい」という思いがあると思います。それを実現するためには、自分の考えに共感してくれる人を増やさなければいつまで経っても絵に描いた餅でしかありません。厳しい言い方に聞こえるかもしれませんが、時間がかかることに対してなぜ腹を括くくらないのかと私は思います。
言い訳ばかりして、とりあえずと先送りを繰り返しても物事は前には進みません。一つでも仕組みを整えれば、業界や仕事のことを何も知らない未経験者に対して、直接教える時間がなくても、「人」なので、学び成長していくなかで一つずつできることが増えていきます。
新卒社員は若いということもあって想像以上に吸収力があり、成長スピードも速いです。入社して2〜3年経てば新卒社員たちでも店長や社長に代わって、新たな若手を指導してくれる人もいます。
最初が肝心です。いったん定着する人が出てくれば、その人たちが次世代に自分たちの考えを「やって見せて」伝え、中長期的に見れば自分たちが目指すおいしさやお客様への向き合い方、大切にしたい価値観を共有して、共通した言語で語れる組織文化を築くことができるのです。
稲盛塾長の「共に生きる」の経営思想(フィロソフィー)に支えられる組織文化です。私はこれを「共に成長する」と解釈して若い社員に伝えています。
長期的に安定した利益を生み出す組織にしていくためにも、経営者と従業員が一体感の持てる組織文化を積み上げていく必要があると考えます。そのためにも、中途採用ではなく、新卒採用を軸にして組織づくりをしていくことは人材育成における一つの私なりの答えだと思います。
前田省三
株式会社パレット 会長
