ケーキづくりと人づくりは同じ
私はケーキづくりと人づくりは同じと考えています。本で知り得た知識などは時間の経過と共に忘れますが、経験を通じて身体が覚えたことは何年経っても再現性が高いです。
だからこそ、パティシエたちには自分が経験したこと、自分が新入社員のときに嫌だったことや学んで分かりやすかったことなどを後輩スタッフに伝えるように指導しています。教えることは学ぶことの100倍の価値があり、教えることで学びが完結するのです。
特に、パティシエが味を覚えたり味を表現したりすることは、言語化という2次元と頭の中のイメージという3次元を行き来する行為です。自分の身体的経験を通じて、「イチゴの香りと酸味があるからこのケーキのバランス(調和)がある」などと分かりやすい言葉で表すことが重要になります。
自分の身体的感覚を言語に置き換えると相手に理解してもらいやすくなるメリットもあります。例えば、レモンであれば刺すような酸味、イチゴではみずみずしい甘味となめらかな酸味といった表現です。味わいを示す表現と自分が作る洋菓子の表現がそのままリンクしていきます。
人づくりにおいても同じと考えています。目指すは一貫して「お客様ニーズへの適応」です。適応するための最初は、「自分がどう感じるか」を知ることです。自分の感性から入るほうがリアリティを持ってお客様の気持ちをとらえられます。そこからお客様満足を考えることはそれほど難しい作業ではありません。基準は自分だからです。
一方で、店舗を任される店長はどうしても求められる時間当たり売上、利益などの数字を常に意識しています。漠然と売上が上がった・下がった、イチゴのショートケーキがこれだけ売れたという認識ではなく、数字に対して本質的に理解することがお客様の心をとらえる際に重要になります。
出てきた数字はあくまで結果でしかありません。結果をあとから変えることはできませんが、次につなげるために私たちに対するお客様の信頼や期待などを数字から読み解くことは可能です。それが経営者や店長の役割です。
売上や利益に対して一喜一憂するのではなく、その数字を冷静に受け止めながらどのように想像力をかき立てて自分のマネジメントにつなげていくかが肝心で、パティシエとして洋菓子づくりに取り組んできた知見が活かせる能力だといえます。抽象と具体の思考の繰り返しです。
ショッピングモールに入っている店舗はロードサイドにある店舗に比べると固定客比率が低いのが特徴です。ロードサイド店は固定客が6~7割、新規客が3~4割という構成比率ですが、モール店は固定客が良くて2割で新規客が8割とロードサイド店とは比率が逆転します。
そのようななかで、最近あるモール店の固定客比率が3割へと拡大しました。従来ではありえなかった現象です。
この数字を見て私が感じたのは大きな可能性でした。これまで長年固定客2割以下という数字は絶対に超えることはないと半ばあきらめていたからです。今から考えればこれは私の勝手な思い込みでした。
草津市における洋菓子マーケットは、大都市のように人の流動性があるエリアではないため、新規客が8割でも数としてはほとんど変動しません。そのため、固定客比率が上がると売上全体をそのぶん押し上げてくれます。つまり、今後売上・利益が拡大していく兆しがこの固定客比率の増加から読み取れるわけです。
この変化はこれまでやってきたことが間違っていなかったという証明にもなります。接客サービスや素材を活かした心に残る洋菓子づくりがお客様の心に届いていることを30%という数字は教えてくれています。
出てきた数字を自分の言葉で語れるかどうかは、人を育てていくうえで非常に重要なポイントになってきます。