人気のケーキをどうやって生み出す?パティシエの創造性や味覚を共有するための「3つの共通指針」

人気のケーキをどうやって生み出す?パティシエの創造性や味覚を共有するための「3つの共通指針」

製造工程の一部に機械を導入すれば、技術や経験に頼ることなく誰でも簡単に安定した味を実現できます。しかし、ケーキの高品質で繊細な味を生み出すのは、パティシエの感覚的な「味」へのこだわりと、機械では再現不可能な繊細な手作業です。とはいえ、商品開発において大切なのは、パティシエの感覚や好みだけではないといいます。本記事では、前田省三氏の著書『繁盛店のケーキ店から学ぶ 消費期限1日の経営学』(幻冬舎)より一部抜粋・再編集し詳しく解説します。

機械では再現できない味へのこだわり

洋菓子作りをすべて機械に任せれば、パティシエの技術や経験に頼らずに誰でも一定の品質で作業を進めることができます。製造工程の一部に機械を導入し、安定した味を実現しています。

 

しかし、機械には人の持つ「ゆらぎ」の再現に限界があり、パティシエ独自の繊細な味わいを表現するのは難しいです。

 

特に、生菓子は人の手による繊細な作業が、ほかにはない意外性のある味を生み出します。

 

例えば、シュークリームのクリーム製造です。一般的に、シュークリームには生クリームとカスタードクリームが使われますが、カスタードクリームの割合によって味が大きく変わります。私の店では、生クリーム30%、カスタードクリーム70%を基準にしていますが、この2つを混ぜる工程は手作業で行います。

 

とはいえ、この割合は目安にすぎず、パティシエの手加減や感覚で微妙に味が変化します。これは、脳は同じ味を3回続けて味わうと「飽きる」という脳の学習能力を、本で読んでお菓子作りに取り入れた一例です。

 

もしこの作業にミキサーを使って機械化すれば、混ぜる回数を設定して同じ状態のクリームを毎回作ることができますが、安定した味わいがかえって平坦になり、脳に刺激を与えられなくなります。

 

つまり、お客様に飽きられてしまいます。初めてのお客様はおいしく感じても、2回目、3回目になると味が平坦なので、購入意欲が減退します。一方、手作業では30%を目指しつつも微妙なゆらぎが生まれ、そのわずかなゆらぐ味わいが個性を生み出します。

 

どんなに好きな味でも常に一定だと飽きがきます。だからこそ、同じ商品でも完全に固定した味を求めるのではなく、少し幅を持たせることが大切です。そうした含みを、すべてをパティシエ任せにするのはリスクがあるため、味のブレを最小限に抑えつつ自由度を保つ仕組みとして「生クリーム30%、カスタードクリーム70%」という緩やかな基準があるのです。

 

さらに、手作業にはもう一つの利点があります。それは、天候や湿度といった日々の環境の変化に柔軟に対応できる点です。

 

例えば、サブレを焼成する際、オーブンの設定時間を、湿度が高い日は3~5分プラスして設定します。湿度や天候によって水分の蒸発具合が変わるため、その日の体感湿度によって時間を変えることが必要になるのです。マニュアルに落とすのではなく、身体の経験値としてその人の五感で学ぶことが大事なのです。

 

私たちが高品質を保っているのは、こうした繊細な調整をパティシエが行い、それを支える仕組みが整備されているからです。ケーキ作りの現場では機械の導入による効率化と安定性が求められる一方で、パティシエの力量と感覚が生み出す微妙な味の変化が重要な役割を果たしているのです。

 

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※本連載は、前田省三氏の著書『繁盛店のケーキ店から学ぶ 消費期限1日の経営学』(幻冬舎)より一部を抜粋・再編集したものです。

繁盛店のケーキ店から学ぶ 消費期限1日の経営学

繁盛店のケーキ店から学ぶ 消費期限1日の経営学

前田 省三

幻冬舎

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