多くの人にとって憧れの職業である「パティシエ」は、実は離職率が非常に高く、一見華やかに映るケーキ店も、その裏側にはさまざまな困難を抱えています。本記事では、前田省三氏の著書『繁盛店のケーキ店から学ぶ 消費期限1日の経営学』(幻冬舎)より一部抜粋・再編集し、ケーキ店経営の厳しい現実について詳しく解説します。

華やかに見えるケーキ店の甘くない現実

ショーケースに並ぶ美しいケーキと、ふんわりと漂うおいしそうな香りに包まれた店内、笑顔でお客様を迎えるスタッフたち――ケーキ店は魅力的な空間。お店に一歩足を踏み入れると、誰もがその華やかで心躍る世界に引き込まれます。

 

誕生日や記念日など、特別な日を彩るケーキや日常のひとときに幸せを添えるスイーツは、訪れる人々に至福の瞬間を届けます。しかし、いざケーキ店を経営するとなると、このすてきな空間の裏に想像を超える厳しい現実があります。

 

ケーキ作りは新しいアイデアや技術が求められるクリエイティブな仕事です。一方、素材選びや仕入れ、製造工程の管理など、どの過程においても緻密さが必要です。市場ニーズは日々変化するので、その状況に適応することが求められます。

 

また、スタッフの育成やモチベーションを高める工夫、多くのお客様に満足してもらうための努力も同じように求められます。さらに、季節やイベントに合わせたマーケティング、商品企画、商品製造オペレーション、価格設定など、さまざまな業務をこなしたうえで、利益を確保し、常に高品質な商品とサービスを提供することが求められます。

 

おいしいケーキを扱うケーキ店を経営することに憧れる人は多いですが、華やかな表舞台の裏には決して甘くない現実があります。

ケーキ店経営を難しくする廃棄率の高さ

ケーキ店経営を難しくする原因の一つに廃棄率の高さがあります。これは飲食に関連する業種に共通する課題です。

 

生ケーキは素材の良さと鮮度が命です。10℃以下で使用する生クリームや冷蔵管理するフルーツをふんだんに使ったケーキは消費期限が1日しかありません。作ったその日のうちに売り切らなければ残った商品は廃棄になるため、経営にとって大きな負担になります。

 

焼き菓子なら多少賞味期限が長くなりますが、生ケーキではそうはいきません。廃棄を出さないために、どれくらい売れるのかという販売予測と計画に基づいた材料の発注管理、商品製造数の調整などが必要です。

 

難しいのは商品の管理だけではありません。非常に高い技術が求められるという点がさらに廃棄率を高めます。例えばマカロンは見た目のかわいらしさとは反対に、パティシエ泣かせの代表的なスイーツです。

 

最初の工程であるメレンゲの泡立て加減は大切です。これ一つで仕上がりが変わります。また、アーモンドパウダーと粉砂糖の混ぜ合わせや、経験に基づき、生地をほどよく混ぜる「マカロナージュ」という作業も難易度が高く、加減を誤ってしまうと形が崩れたり、中に空洞ができたりしてしまいます。

 

さらに、絞り出しの技術や乾燥時間の調整、焼き加減にもその時の状況に合わせてこまやかに対応できる経験値が必要です。オーブン内の温度管理に失敗すると、焼きムラや生焼けが発生し、最後の工程であるクリームを挟む作業も最適な硬さと量を見極めなければ食感を損ないます。

 

このように、ケーキ作りは経験を重ねたプロでも失敗してしまう作業が多く、失敗してしまえば商品として販売できないどころかすべて廃棄になってしまいます。

 

次ページ人が育たない離職率の高い厳しい現場

※本連載は、前田省三氏の著書『繁盛店のケーキ店から学ぶ 消費期限1日の経営学』(幻冬舎)より一部を抜粋・再編集したものです。

繁盛店のケーキ店から学ぶ 消費期限1日の経営学

繁盛店のケーキ店から学ぶ 消費期限1日の経営学

前田 省三

幻冬舎

数値化×見える化で着実に利益を出し続ける! 廃棄ロス、低利益率、人材不足…… 難しいかじ取りを迫られるケーキ店を安定成長に導いた経営手法とは? 飲食店や食料品店は利益率が低く、安定的な経営を行うのが難しい業…

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