〈ケーキづくり〉と〈人づくり〉は同じ…繁盛する店における人材育成の鍵は「経験と学びの継承」と「一人三役多能工」

〈ケーキづくり〉と〈人づくり〉は同じ…繁盛する店における人材育成の鍵は「経験と学びの継承」と「一人三役多能工」

製造や販売など、さまざまな役割が求められるケーキ店。理想の組織づくりのため、新入社員にどのような指導をするべきでしょうか。本記事では、前田省三氏の著書『繁盛店のケーキ店から学ぶ 消費期限1日の経営学』(幻冬舎)より一部抜粋・再編集し、詳しく解説します。

一人三役多能工の人材育成

一人でいくつも業務をこなせるように、私は一人三役多能工の人材育成を実施しています。製造と販売ができることはもちろん、製造のなかでもオーブンと仕上げのどちらもできることは多能工にあてはまります。ほかにも、他店が人手不足になったときにヘルプ要員として入ることができるのも三役のなかの一つの役割になってきます。

 

例えば、ショッピングモールで展開している店舗の場合、モール専用のクレジットカードやポイントカードがあり決済方法も一般的なものとは異なります。そのため、現場に立100たないと説明を聞いただけでは理解して対応することができません。つまりヘルプで働ける人、働けない人がはっきり分かれるのです。

 

そのため、いつでも誰もが他店へのヘルプが必要なときにサポートに入ることができるように、私は入社3年目までに各店の製造・販売を一度は経験するジョブローテーションを導入しました。ジョブローテーションによって、各店が人手不足に陥ったときに誰かが対応できる体制を整えたのです。

 

実はジョブローテーションは経営効率の観点でいうとロスが非常に大きくなります。通常だと交代で勤務できるところが店長や先輩による教育時間が必要になるため、最初は店長と新人(あるいは先輩と新人)というように2人分でシフトを組まなければなりません。

 

また、不慣れな環境で仕事をするので人によってはメンタル不調に陥るリスクもあります。しかし、この制度により一人で三役を担える人材に成長できるため、長期的には従業員にとっても会社にとっても大きなメリットになります。

 

一人三役多能工の考え方は少ない人数でチームを成り立たせる草野球的な発想です。常にそろう人数が9人ギリギリの草野球状態では、「自分はピッチャーしかできない」「外野手はちょっと無理」と言っているといつまで経っても試合が組めません。

 

ピッチャーが途中で投げられなくなったのでサードを守っていた選手が6回から登板したり、体力的に外野が無理になればファーストとライトが交代したりして、臨機応変に一人がいろいろなポジションをこなせてはじめてチームが機能します。

 

私たちも従業員一人ひとりが、さまざまな職種や役割をこなし、どこの店舗でも仕事ができるようになったことで、少人数でも効率よく店舗を回せるようになりました。これは女性比率が高くなりがちなケーキ店において、従業員が産休・育休を取得しやすくなるというメリットも副次的に生まれました。

 

子どもの保育園などのお迎えがあり、短時間勤務を希望する従業員が出てきた場合でも、周りが代わりに業務を担ったり、ヘルプ要員として店舗に入ったりできるので、安心して産前・産後休業や育児休暇から復職できます。

 

一人一役しかできない場合だと、一般的なケーキ店ではこうした福利厚生を整えることは実態としてほとんどできません。実際にほかの洋菓子店などは、こうした状況によって人材採用や人材定着という点で苦労しています。

 

一人三役多能工を導入したことで、人材定着率も上昇し、私たちは2021年に従業員の育児休業・育児休暇の取得推進等に熱心な企業として大津市から表彰されました。

 

新卒採用の会社説明会などでは、「私は製造だけをやりたい」と希望する学生も多く、最初は私の考える一人三役多能工という制度に関心を持ってもらえることはなかなかありませんでした。

 

しかし、「みんなで互いに助け合える環境があれば、結婚、出産、育児などライフステージが変わっても仕事が続けられる」という話をすると、多くの人が考え直します。この制度に興味を持ち、将来に対して心理的安全性が高い環境があるということで、応募してくれる学生や社会人も増えてきたのです。

 

新規採用のときに、個人店はオールラウンダーを求め、大手企業はスペシャリストを求めます。私が経営するケーキ店では、オールラウンダーの経験のあとでスペシャリストも目指せる環境です。そういう環境はこの企業規模だからできることと説明しています。

 

また、この制度を導入したもう1つの理由として、販売と製造の連携を強化したかったという理由があります。個人店によくあることで、販売と製造でお互いの利益を主張し合って店舗運営が行き詰まってしまうので、昔であれば厨房をお父さん、販売をお母さんが担当して、お父さんとお母さんの戦いになってアルバイトの販売スタッフや社員が巻き込まれていくという光景は見たことがある人も多いと思います。

 

こうした対立が起こらないようにするには、パティシエが販売を経験すれば販売スタッフの気持ちも分かり、厨房に戻ったときにどう動けばお客様の要望に応えられるかという知見も得られると考えました。

 

このように一人三役多能工の仕組みは、さまざまなところでメリットがある制度であり、同時にスタッフ一人ひとりが自身の強みに気づく機会となり、自分の可能性を広げることにつながる仕組みでもあるのです。

 

前田省三
株式会社パレット 会長

 

 

※本連載は、前田省三氏の著書『繁盛店のケーキ店から学ぶ 消費期限1日の経営学』(幻冬舎)より一部を抜粋・再編集したものです。

繁盛店のケーキ店から学ぶ 消費期限1日の経営学

繁盛店のケーキ店から学ぶ 消費期限1日の経営学

前田 省三

幻冬舎

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