パティシエの感性を尊重する
パティシエの技術や感覚は大切ですが、商品開発においてすべてがパティシエの感覚や好みに基づいているわけではありません。まずは、お客様のニーズをとらえ、ターゲットを明確にしたうえで、そこにパティシエの想いを加えていきます。
ケーキ作りはゼロから形にするものであり、しっかりとした企画に沿いながら、パティシエ一人ひとりの創造性と味覚が活かされて人気商品が生まれます。ケーキ作りでは「作り手の豊かな感性」が大きな役割を果たします。味わいは感覚的なもので、人によって、さらにはその日の体調や気分によっても異なります。
そこで私たちは、感覚的な要素を含めた「味」を共有するために、ケーキ作りにおける3つの共通指針を設けています。
1つ目はお菓子にとって最も重要な「後味と香り」です。後味と香りは良い素材を選び使うことから作られます。香りが強いか、心地よいか、後味は長く残るかなどを意識し、言語化して認識を共有します。
例えば、私たちはイチゴソースを真空加圧の機械を使って作ります。イチゴ、砂糖、レモンのみを使い、保存料は使用しません。他店では半製品のソースを使うことが多いのですが、私たちは常に素材から作ることで、高い品質を提供しています。
2つ目は「パティシエの想いの言語化」で、どんな味をお客様に届けたいのか、何を感じてもらいたいのかが明確になります。口溶けを重視したいのか、噛みごたえのある味を表現したいのか、パティシエ自身が明確なイメージを持って言語化します。そうした取り組みで、お客様にその想いは伝わるのです。
見た目が美しいケーキでも、パティシエの想いが伝わらなければ、もう一度食べたいにつながらないのです。ショーケースには、常にパティシエの情熱や想いが詰まった商品が並んでいるべきだと考えています。
3つ目は「味の言語化」です。パティシエが育った環境や経験してきた食材により、作り出す味には違いがあります。そのため、経験の幅が狭かったり、ほかのスタッフとの感覚にズレがあったりすると、アウトプットされる味の質に差が出てしまいます。そのため、競合店に足を運び、さまざまなケーキを試食して味覚の経験を広げることが重要です。
30人のパティシエが同じ「おいしさ」を目指すには、味覚という感性を共有する必要があります。そこで重要なのが、ケーキの味を言葉で表現することです。「おいしい」という曖昧な言葉を避け、具体的に味を伝えるトレーニングを行っています。これは新商品開発の際にも大いに役立ちます。
新商品を開発する際、パティシエはまず頭の中で自由にイメージを描き、素材やデザインを組み合わせます。しかし、言葉にする段階で行き詰まることも少なくありません。ぼんやりとしたアイデアは夢と同じで具体性がありません。
言語化のトレーニングを通して、アイデアを形にすることで商品の詳細な構成がはっきりと見えてくるのです。言語化によって、2次元の発想と脳内の3次元イメージを行き来することで、効率的に商品開発が進みます。
前田省三
株式会社パレット 会長
