(※写真はイメージです/PIXTA)

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「ディープシークの衝撃」

中国のスタートアップ企業、ディープシーク社が開発した生成AI(人工知能)に金融市場の注目が集まっています。

 

まず、1.「DeepSeek-R1」は、大規模言語モデル(LLM;自然言語処理に特化した生成AI;言語テキストを学習して、言語テキストを返す生成AI)であり、なおかつ推論モデル(答えだけでなく、「なぜそう考えたのか」も合わせて返してくれる、より高度な能力を持つ生成AI)です。この「R1」や米OpenAI社の「Open AI o1」、米Google社の「Gemini 2.0 Flash Thinking」といった推論モデルは、PhD(博士号)取得者並みの知能を持つとされます。

 

われわれ一般ユーザーにとってなじみのあるLLMは、対話型のLLMである米OpenAI社のChatGPTです。これは、答えを返しますが、「なぜ、その答えに至ったのか」という根拠は示しません。根拠が得られることのメリットは、ひとつには、根拠を確かめられるということであり、もうひとつは、人間の側が推論の方法や考え方そのものを学べるという点です。

 

もうひとつ、金融市場にインパクトを与えたのが、②「Janus-Pro-7B」です。これは、ディープシーク社が1月27日にリリースしたマルチモーダル・モデル(→言語テキストのみならず、画像などを入力して言語テキストを返す;言語テキストを入力して画像などを返す生成AI)です。たとえば、ある画像とリクエストをもとに、その画像の背景にあるストーリーを生成したり、逆に、文字でのリクエストをもとに、画像を生成したりします。

 

ディープシーク社製の生成AIのポイントを3つ挙げます。

 

1.高性能である(→米OpenAI社や米Google社などの競合モデルと同等か、それらを上回る能力を持つことが示されている)、

 

2.オープンソースである(→PythonやLinux、Javaなどもそう;ソフトウェアの構成基本要素であるソースコードへのアクセスとプログラムの使用・編集・共有に制限がなく、世界中の開発者が改良に携われる。結果、開発のコストが下がったり、スピードが上がることが期待される。

 

ただし、その分、管理のリスクも高まる;ソースコードに隠された情報収集や追跡の仕組みがあるか、脆弱性の問題がないかなどを利用前に検証できる;これに対し、米OpenAI社や米Google社の生成AIはクローズドソース≒ブラックボックスである代わりに、開発や安全性管理などは同社が責任をもって行う)、

 

3.個人利用や商用利用のコストが低い(→現時点では、米OpenAI社のChatGPT Plus/Proは月額料金があるのに対し、ディープシーク社の「R1」は無料。商量利用のための従量制課金も米OpenAI社の「o1」に比べて大幅に低い。現時点では、米Google社のGemini 2.0 Flash Thinkingも無料)

 

ただし、たとえば、ディープシーク社は中国の企業ゆえ、中国の歴史や政治に関する特定の回答ができないといった問題点や、情報を取得・利用される可能性がある点が指摘されています(→後者は西側企業の生成AIでも同様でしょう)。

 

今後、競争相手の西側企業はそうした「信頼性の低さ」を強調するかもしれません。また、今後、米中対立が激化すれば、西側諸国では利用が禁止される可能性も全くないとは言い切れないでしょう。

 

金融市場にとっての影響について、よりわかりやすいポイントは、

 

1.ユーザーの利用コストが低いという点と、

2.ディープシーク社が自社の生成AIを低コストで開発した(と主張している)点です。

 

DeepSeek-R1のひとつ前のモデルである「DeepSeeK-V3」は、米OpenAI社のGPT-4oや米メタ・プラットフォームズ社のLlama 3.1を凌ぐ能力があるとディープシーク社は示していますが、同社はDeepSeeK-V3の開発費用がわずか550万ドルであったとしています。

 

以下にユーザー側と開発側のそれぞれのコスト削減をリストしてみます。

ユーザー側の企業にとってのコスト削減

まず、ユーザー側の企業にとっては利用の費用が下がります。したがって、ユーザー企業の利益や業績にとってはプラスに作用する可能性があります。

 

たとえば、業務効率化のために企業のシステムにさまざまな生成AIを接続し、企業が持つデータなどに対する作業を指示し、加工や要約、文書化、メール送信といったアウトプットを返すときには(⇒生成AIをビジネスに用いるときには)、インプットとアウトプットの両方に課金されます。先に述べたように、ディープシーク社の生成AIは、たとえば米OpenAI社の生成AIに比して、この料金が大幅に低く設定されています。

 

この接続コストが削減されると、その分、利用費そのものを削減できたり、あるいは(接続コストが下がった分)利用を拡大することで、たとえば人件費や作業時間をさらに削減して、利益や売上高を高められる可能性があります。

 

ユーザー側の企業にとって費用が削減できるということは、開発・提供側の企業の利益が減ることを意味します。今回の出来事は、部分的には「開発側の企業から、ユーザー側の企業への利益移転が実現する」ことを意味するでしょう(→ただし、インフレや人件費の上昇に沿って、利用料金はやがて引き上げられる可能性があります)。

 

開発側の企業のコストも下がり、参入が増え、中長期的にはイノベーションが促されることで(⇒1, イノベーションが加速する、②パターンが増える)、ユーザー側の企業は、より便利で、コストが低い生成AIを利用でき、利益や売上高をさらに高められる可能性もあるでしょう。

 

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