開発側の企業にとってのコスト削減
とくに巨大テクノロジー企業にとっては今後、開発のための費用が削減されることで、これまでコミット(確約)している研究開発や設備投資を減らすことができると考えられます。
(競争力のある製品やサービスを開発できると仮定すれば)研究開発費の削減は利益を押し上げます。設備投資が減ることは「成長期待が減る」と捉えられるかもしれませんが、その分を(それが良いかどうかは別として)競合他社の買収に充てたり、自社株買いに利用することも可能でしょう。
他方で、巨大テクノロジー企業による投資の削減は、画像処理半導体(GPU)を供給するエヌビディアや、(「ハイパースケーラー」と呼ばれ、AIの開発企業などに膨大な計算能力を提供する)クラウドサービス・プロバイダーのアマゾンやマイクロソフト、グーグル、基盤やサーバーラック、空調設備、建物、電力などを提供する企業の業績や株価には悪影響が出る可能性があります。
ただし、逆に今回の出来事によって、さまざまなAIサービスの利用コストが低下したり、利用が拡大することで、これらの製品やサービスへの需要は増えると考える向きもあります。
「マグニフィセント7」での関係性を考えると、子会社や出資先を利用してAIを開発しているマイクロソフトやアマゾン、メタ、グーグル、アップル、テスラは「画像処理半導体(GPU)を購入する顧客」であり、エヌビディアは「そのサプライヤー」(納入業者)です。
エヌビディアは、これまでは画像処理半導体(GPU)の独占的な供給主体として利益率が非常に高かったわけですが、仮に、これから「顧客」が「もはやそんなに必要ない」と考え始めれば、同社の利益率は下がる可能性があります。
もちろん、大手テクノロジー企業を含む他社も自社製の画像処理半導体(GPU)の開発を急いでいますので、今回の出来事があろうとなかろうと、エヌビディアは潜在的なライバルとの競争にさらされています。
加えて、米中対立のなかで、エヌビディアを含む、西側の半導体企業や半導体製造装置企業の製品輸出に関する規制がさらに強化されたり、出荷が厳格に管理される可能性も考えられるでしょう。
やや先に目を転じると、前節で触れたとおり、開発側の企業のコストも下がることで、今後はさまざまなAIの開発に新たに参入しようとする企業が増えると考えられます。
中長期的に考えると、開発コストの削減は「次なるGAFAM」や「第2のOpenAI」(→OpenAIがこの先、成功するかどうかはわかりませんが)のような企業が生まれる素地を作るでしょう。
他方で、それは競争が激化することを意味しますので、既存の企業で淘汰される企業も出てくると考えられます。それは、OSやインターネット・ブラウザ、検索エンジンの歴史が証明するところです。
ディープシークが教えてくれること
今回の件は、
●新しい企業が出てきて、われわれの生活における利便性の向上や経済の成長を促してくれるということ、また、投資家に機会を与えてくれること、
●したがって、投資家は投資家の本分として、しっかりと投資先や競合環境、規制などを精査して、銘柄選択をする必要があること、
をわれわれに教えてくれていると思われます。
年初のエントリーでも述べたとおり、銘柄選択や分散投資は重要でしょう。
重見 吉徳
フィデリティ・インスティテュート
首席研究員/マクロストラテジスト
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