賃貸業との兼業農家の長男と結婚した史子さん。義父が病気の宣告を受けてから農家を続けることが難しくなり、かつ義父の財産では相続税を支払うための預金が足りないことがわかりました。いまからできる対策はないのでしょうか。本記事では、相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が事例をまじえて、相続税が預金で払えない場合の対策について解説します。
兼業農家に嫁いだ史子さん
史子さん(45歳・女性)は兼業農家の長男と結婚しました。夫の両親と同居して、子どもたちと3世代同居をしています。両親は野菜農家で、義父が先代から相続した広い畑があり、その畑で育てた野菜をJAの販売所に納品して収入を得ています。
しかし、野菜の販売だけでは生活できないため、父親は40年ほど前から8軒の戸建て貸家を建てて賃料を得てきました。
義父が体調を崩した
義父は80歳になり、体調を崩して入院。手術して、回復はしたものの病名を告知されており、いつ再発するか分からない不安があります。ようやく退院できたものの、もう農作業はできない状況。これからどうすればいいかと史子さんから相談がありました。
長男である史子さんの夫はサラリーマンで、農業を継ぐつもりはないといいます。今年の野菜の出荷は義母と史子さんを中心に、近くに住む次男にも手伝ってもらってなんとか出荷できていますが、父親が農業をできないとなると継続が難しいといいます。
父親の財産と相続税
父親の財産を確認すると、所有する土地は全部が市街化区域のなかにあり、畑と言っても相続では宅地並みの評価となります。自宅が400坪、貸家250坪、畑2,500坪、田1,500坪あり、建物1,000万円と合わせた評価の合計は約2億円。
預金は約2,000万円ですから、財産の91%が不動産、土地が86%を占めています。相続人は母親と子供二人の3人ですから、基礎控除は4,800万円。相続税を計算すると3,200万円と試算されますので、すでに納税できる預金が足りないということが明白となりました。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
一般社団法人相続実務協会 代表理事
一般社団法人首都圏不動産共創協会 理事
一般社団法人不動産女性塾 理事
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書86冊累計81万部、TV・ラジオ出演358回、新聞・雑誌掲載1092回、セミナー登壇677回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2025年版 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載相続のプロが解説!人生100年時代「生前対策」のアドバイス事例