「急いては事を仕損じる」は科学的に証明されている
ほとんどの苗木は、最初の数十年を母樹の樹冠の陰に隠れて過ごす。太陽光をあまり受けられないため、ゆっくりと成長する。成長が遅いと、密度が高く硬い木になる。
しかし、広々とした野原に苗木を1本だけ植えると面白いことが起こる。大きな木によって日差しを遮さえぎられることなくたっぷり浴びられるので、苗木はみるみるうちに育つ。
成長が速いと、密度が低く軟らかい木になる。そのような木は菌類や病気の温床となる。「成長の早い木は腐るのも早いため、老木になる前に枯れてしまう」と、森林管理官のペーター・ヴォールレーベンは書いている。急いては事を仕損じる、だ。
動物の成長についても考えてみよう。同じ種類の稚魚を2グループ用意する。一方のグループを通常より冷たい水に、もう一方のグループを通常より温かい水に入れる。どちらの場合も、ある特定の温度になると興味深い現象が起こる。冷水に住む魚は通常より成長が遅くなり、一方、温水に住む魚は通常より成長が早くなる。
両方のグループを通常の温度の水に戻すと、最終的には普通サイズの成魚に落ち着く。
しかし、そのあと、驚くべきことが起こる。稚魚のときに成長スピードがゆっくりだった魚は、平均よりも30パーセント長生きする。しかし、稚魚のときに人為的に成長スピードを速められた魚は、平均よりも寿命が15パーセント縮まるのだ。
これは、グラスゴー大学の生物学者チームがかつて発見したことである。原因は特に複雑なことではない。成長をあまりに加速させると、細胞組織を損傷させてしまいかねないのだ。
また同チームによると、そうした成長の加速は、「本来、損傷した生体分子の維持や修復に使われるべき能力を流用することによってのみ可能となる」という。反対に、成長を遅らせると、「維持や修復に使われる能力の割り当てを増やすことができる」という。
「急いで製造された機械が、慎重に念入りに組み立てられた機械よりも早く故障するのは充分に予想できることだろう。我々の研究は、これが体にも当てはまることを示している」と、共著者の一人のニール・メトカーフは述べている。
成長するのはよいことだ。小さいままだと結局は食べられてしまうのだから。しかし、無理やり成長させたり、成長を加速させたり、人為的に成長させたりするのは、逆効果になりやすい。
著者:モーガン・ハウセル
翻訳:伊藤みさと