ナースコールシステムは、患者と看護師をつなぐ医療現場の重要なインフラです。従来はシンプルな呼び出し機能にとどまっていましたが、昨今ではAI、スマートフォン、そして次世代通信技術の導入により、さらなる進化を遂げつつあります。一方で導入には、病院内の通信インフラの整備が不可欠です。本記事では、病院に導入されうる最新技術と、それを支えるための通信基盤の整備について、医療設備の専門家であり、日本医療福祉設備協会・理事の花田英輔氏が解説します。
ローカル5Gの導入と課題
ローカル5Gは、特定の建物や敷地内で専用の5Gネットワークを構築する通信方式です。これは通信事業者が提供する公衆5Gネットワークとは異なり、病院や企業の内部専用ネットワークとして利用されます。ローカル5Gの最大のメリットは、高速なデータ通信と低遅延です。これにより、大容量の医療データのやり取りや、リアルタイムでの高品質な音声・映像通信が可能となり、医療現場での業務効率向上が期待されています。
しかし、ローカル5Gの導入にもいくつかの大きな課題が存在します。まず免許(電波法第4条)の取得と無線従事者(無線免許保持者)の配置も必須となりますし、電波使用料もかかります。また、ローカル5Gの基地局(アンテナ)の設置には初期投資を要し、導入コストが高くなる点も大きな課題です。
総務省はローカル5Gの普及を促進するために、免許取得の規制緩和を進めていますが、それでもなお運用には厳しい要件が課されており、既存の通信システムとの互換性や統合も重要な課題となります。高性能な通信環境が提供できる一方で、導入に際しての技術的なハードルやコスト面での課題があり、現時点では慎重な判断が必要でしょう。
FMCの可能性と課題
FMC(Fixed Mobile Convergence)は、建物の外では通常の携帯電話として、公衆携帯網を使用しますが、建物のなかでは内線電話として利用できる技術です。この仕組みにより、医療従事者は外出先でも院内でも同じ電話番号でシームレスに通話ができるようになります。
特に外回りの多い医師には大きなメリットがあります。たとえば、大学病院に所属する医師が外部の病院へ応援に行く場合であっても、FMCを使えば院内外のどこにいても一貫して通話が可能です。また、薬剤師が疑義照会を行うときにも、外出中の医師にすぐに連絡を取れるため、業務効率が大幅に向上します。
しかし、FMC導入にも、いくつかの課題が。通常のナースコールは、患者からの呼び出しが複数の看護師へ同時に通知され、誰かが応答するとコールが停止するという仕組みです。しかし、FMCを使う場合は、通知先が個々の携帯端末になるため、シフト変更ごとに設定を変更しなければなりません。当然、病欠など急なシフト変更の場合もです。特に大規模な病院や病棟では、設定の変更が手間となり、運用が煩雑化する可能性があります。病院が端末を用意する方法もありますが、それではFMCのよさが失われるでしょう。そのため、FMC導入においても、現場での運用には慎重な検討が必要といえます。
まとめると、医療機関向けの無線LAN、sXGP、ローカル5G、FMCの4つの通信技術は、それぞれに利点と課題があり、最適な選択は施設の規模や導入コスト、既存システムとの互換性などに依存します。明確な「正解」はなく、各医療機関のニーズに合わせた慎重な選定が求められます。2024年秋時点では、sXGPの安定性と汎用性が注目されていますが、今後とも技術の進化や市場動向に応じて最適な通信手段を選んでいくことが重要です。
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国立大学法人佐賀大学 理工学部 教授(数理・情報部門)
・学歴
昭和60年 九州大学工学部情報工学科卒業
昭和62年 九州大学大学院総合理工学研究科情報システム学専攻修士課程修了
平成13年 学位取得(博士(工学)、佐賀大学)「医用電子機器の電磁波障害防止に関する研究」
・職歴
昭和62年 日本電気株式会社入社(C&C情報研究所、平成元年から情報処理金融システム事業部)
平成 4年 長崎大学総合情報処理センター助手
平成 8年 九州大学医学部附属病院助手(医療情報部)
平成14年 島根医科大学医学部附属病院助教授(医療情報部)
(平成15年に大学統合により島根大学、平成19年より職名変更により准教授)
同病院 医療情報部副部長、地域医療連携センター副センター長を併任
同大学 医学部情報ネットワークセンター副センター長を併任
平成14年 メディア教育開発センター客員助教授併任(研究開発部、平成17年度まで)
平成19年 島根大学医学部附属病院個人情報保護教育責任者
平成20年 国士舘大学理工学部非常勤講師(健康医工学系、令和元年度まで)
平成23年 NPO法人しまね医療情報ネットワーク協会理事(平成26年度まで)
平成24年 島根大学医学部附属病院データセンター副センター長を併任
平成26年 佐賀大学大学院工学系研究科教授(知能情報システム学専攻)
平成29年「九州地区の医療機関における電波利用推進協議会」座長
平成30年 佐賀大学理工学部教授(知能情報システム学科、改組による)
平成31年 佐賀大学理工学部教授(情報部門、改組による)
令和 5年 佐賀大学理工学部教授(数理・情報部門、改組による)
・所属学会(いずれも正会員)
日本音響学会、情報処理学会、日本医療情報学会、日本生体医工学会、日本遠隔医療学会、日本医療福祉設備協会(理事)、ITヘルスケア学会、電子情報通信学会、日本医療機器学会
・研究会活動等
日本生体医工学会専門別研究会「医療・福祉における電磁環境研究会」会長(平成19年度~平成24年度、平成29年度~令和4年度)、同会幹事(平成17年度~)
電子情報通信学会「ヘルスケア・医療情報通信技術研究会」専門委員(平成18年度~)、専門委員会委員長(令和2年度~令和3年度)、顧問(令和4年度~)
日本医療福祉設備協会「学術委員会」委員(平成27年度~)
電波環境協議会「医療機関における電波利用推進委員会」副委員長(平成30年度~)
第17回日本医療情報学会春季学術大会プログラム委員長(平成25年6月20日~22日、富山)
第21回日本医療情報学会春季学術大会プログラム委員長(平成29年6月1日~3日、福井)
第51回日本医療福祉設備学会副学会長(令和4年10月27日~28日、東京)
第53回日本医療福祉設備学会学会長(令和6年11月29日~30日、東京)
2024年11月にはコトセラウェビナー(https://www.cotocellar.com/seminars/list)にて「ナースコールとスマートフォン連携」に関する講演を実施した。
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