愛する妻を亡くし、1人遺されたAさん
Aさんには、5歳年上の妻Bさんがいました。会社で出会った2人は結婚後も喧嘩することはほとんどなく、周囲からは「おしどり夫婦」と呼ばれるほど仲睦まじい生活を送ってきました。
Aさんが定年退職し、2人の時間ができてからも、毎日散歩やショッピングに出かけます。ときどき海外旅行にも足を伸ばすなど、幸せな日々が続いていました。
しかし、そんな暮らしは突然終わりを迎えます。85歳になったBさんが心筋梗塞で倒れ、そのまま帰らぬ人となってしまったのです。
当時80歳のAさんは、突然のことで大きなショックを受け憔悴しましたが、東京で暮らす長男の協力もあってなんとかお通夜とお葬式を済ませました。相続税の申告書についても、息子さんが「俺がやるよ」と言ってくれたこともあり、長男にお任せ。相続の諸手続きも無事終わったかにみえました。
心当たりはないが…2年後、税務署から来た「1本の電話」
妻の死から2年ほど経ったある日のことです。Aさんのもとに、税務署から連絡がありました。聞けば、「税務調査に伺いたい」といいます。
「よく覚えていないけど、まったく心当たりがないなあ。どうしてウチなんかに調査に来るのだろう?」……Aさんは疑問に思いながらも、特に断る理由もなかったため受け入れることにしました。
そして調査当日、2人の税務調査官がAさんの家を訪ねてきました。他愛のない世間話から始まり、徐々にAさんの警戒心もほぐれてきたころ、調査官は次のように尋ねました。「この通帳はなんでしょうか? お孫さんの名義のようですが……」。
Aさんは、「あぁ、これはですね、贈与ですよ贈与」と答え、通帳を作った目的について笑顔で話しました。
Aさん「孫が生まれたときに、『将来大学に進学したときや結婚するときに使ってほしい』と思ってね、家内と相談して口座を作ったんです。結局は家内が毎年100万円ずつコツコツと入金してくれていたみたいなんだけれどね。『孫が大きくなったときにびっくりさせよう』ということで、孫には内緒でこっそりやりましたよ。
最近はほら、なんでも高くなって、教育費もばかにならんでしょう。もう孫もずいぶん大きくなって、子どもより生前の家内に顔が似てきているように感じてね……。そろそろあげる頃かなぁなんて思ってるんですけれど。喜んだ顔を想像すると、いまからすごく楽しみなんです (笑)」
すると、さきほどまで楽しく雑談していたはずの調査官は、渋い顔で言いました。「なるほど……。Aさんのお気持ちは非常によくわかりますが、これは残念ながら生前贈与とは認められませんね」。
Aさんは、「あれ? どうしてかなあ。知り合いに『毎年110万円までの贈与は非課税だ』って聞いたから、100万円に決めたんですよ。どうして贈与にならんのですか?」
Aさんは納得がいかない様子ですが、結局、相続税本税と加算税を含め、400万円もの追徴税を課されることになってしまいました。
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