(※写真はイメージです/PIXTA)

企業の理念や歴史、地域性を軸として商品を発信する「ルーツ・ブランディング」。同じ商品を異なる場所で売り出すという新たなプロジェクトでは、商品価値を伝えるデザインも変化します。今回は、株式会社第一紙行 ブランディング事業部の著書『地域と企業の未来を紡ぐ ルーツ・ブランディング』(幻冬舎メディアコンサルティング)より、大阪の和菓子専門店「菓匠庵白穂」を例にみていきましょう。

先代の後を継いだ19歳の2代目だったが…

菓匠庵白穂は1981年、新澤貴之社長の父である先代が「地域のお客様に本物の美味しい和菓子を伝えたい」との思いで東大阪市の若江岩田に創業しました。

 

跡を継ぐために社長は高校卒業後、千葉にある和菓子専門店で修業を始めましたが、その翌年の1999年、先代が46歳で急逝したため、実家に戻ることになります。

 

修業を始めたばかりでまだ和菓子の技術も経営の知識もなかったのですが、母と相談し「父が20年近くやってきた店だから、この先も続けていこう」と決意を固め、19歳で2代目に就任して母と2人で再スタートすることになりました。

 

社長は母とともに手探りで準備を進め、数ヵ月後にようやく営業を再開することができました。

 

再オープン日には地元のお客様が列を成して来店した光景を見て、先代が築き上げた「菓匠庵白穂」がいかに地域に愛されていたのかを実感し、「応援してくれる地元の人たちのためにも店を潰すわけにはいかない」と和菓子の研究により一層邁進しました。

 

毎日夜遅くまで製菓専門書を読みあさり、試作を繰り返し研究したことで製菓技術は確実に向上し、それに合わせて商品の品質が上がり、品数も増えていきました。この頃を振り返って、新澤社長は「新しいことを学ぶのが楽しくて仕方なかった」といいます。

 

最初の1年は順調な推移を見せましたが、その後5年間ほどは、商品の品質は向上したのに売上が下がり、経営が危機的状況に陥ってしまいます。その原因を追究していた当時の社長は、美味しい和菓子をつくるという「職人の視点」に特化しすぎて、その美味しさがお客様にどう伝わるかという「お客様の視点」が欠けていたことに気づきました。

 

そこでプライスカードにメッセージを入れたり、商品について丁寧に説明したPOPを置いたり、お菓子の情緒が伝わるパッケージにしたりと、職人としての技術だけでなく、お客様にお菓子の価値を伝える店づくりを研究し、経営についても勉強を始めました。

 

こうして経営を改善させ、2008年に創業店舗の地の近くに移転し、新たに町屋風の店構えに刷新しました。それが「菓匠庵白穂若江岩田本店」です。さらに2016年には店舗を拡張。2020年には「菓匠庵白穂石切店」を新規出店し、現在は東大阪で2店舗を経営し、売上は引き継いだ頃に比べ約10倍に成長しました。

 

また社長はその高い製菓技術が認められ、38歳のときに和生菓子製造技術者として史上最年少で「なにわの名工」を受賞、その後も数々の賞を受賞しています。

次ページ材料は「3倍の価格で購入」…和菓子づくりにおける社長のこだわり

※本連載は、株式会社第一紙行 ブランディング事業部の著書『地域と企業の未来を紡ぐ ルーツ・ブランディング』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部抜粋し、再編集したものです。

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