地域の風土性をブランドの強みに変えるために
人の気質が生まれ育った土地の影響を受けるように、企業の特色も事業を営む地域の影響を大いに受けます。その影響が顕著に分かるのが日本酒です。
日本酒には、「原料の米に日本産米を用い、日本国内で醸造したもの」など一律の定義がありますが、全国約1,400蔵で醸造される日本酒には多様な特色と豊かな個性があります。
つくり手の思いはもちろんですが、米どころや名水地など自然環境に恵まれた地域、街道沿いの宿場町、水運や海運で栄えたまちなど、蔵のある地域の地理的・風土的要因からも大いに影響を受けているのです。
特に日本酒好きにとってその地域の自然や歴史、風土を知ることは、「この場所で醸された酒は、どんな味がするのだろう」という興味関心を高め、商品の購入動機につながります。
また、酒づくりの背景にある物語に思いを馳はせながら味わうことで、より一層美味しく感じられるようになり、そして、地域とともに歩む酒づくりの哲学に共感し、酒蔵のファンになっていくのです。
このことからも、私たちは、酒蔵のコーポレートサイトなどの「魅せる」の顧客接点ツールをつくる際は、風土の価値をしっかり深掘りし、その情緒を伝えるべきであると考えています。
長崎県平戸市の福田酒造では、まさにこのようなルーツ・ブランディングを行いました。2023年6月、風土の価値と酒づくりの思いをつなげて語り掛けるコーポレートサイトをリニューアル。格段にサイト訪問者を惹きつける仕上がりになりました。
さらに、海のまちに根差しながら革新に挑む福田酒造は、ブランディングを通して「美しく豊かなふるさとの海を表現するような酒を生み出す」という決意を固め、新しい銘柄「福海」を立ち上げました。
体当たりの調査で見いだされたコンセプト
長崎県の北西部に位置する平戸島を中心とした平戸市は、日本で初めて西洋貿易が行われた地として知られています。
平戸オランダ商館などの遺構が残る中心部から約30㎞離れた平戸島南部には美しい志々伎湾が広がり、その沿岸に福田酒造があります。美しく穏やかな湾の対岸には、雄大な志々伎山の姿を望むことができます。
福田酒造はこの志々伎の地で創業以来、300年にわたり酒をつくり続けてきました。現在の代表取締役である福田竜也社長は15代目に当たります。2022年、蔵元への就任を機に、社長は自身が描く酒造の未来について考えるようになりました。
最初は、蔵のロゴマークを変えることから始まりましたが、何を象徴にするか考えるうち、社長は「福田酒造らしさとは何だろう」と思いを巡らせるようになりました。
海との縁が深い酒蔵というのが特徴ではありますが、同じように海に近い酒蔵は日本中にあります。福田酒造らしさの象徴を探すために、社長は生まれ育った平戸島南部の風土を改めて見つめ直すことにしました。