(※写真はイメージです/PIXTA)

企業の理念や歴史、地域性を軸として商品を発信する「ルーツ・ブランディング」。長い歴史のなかで試行錯誤を繰り返してきた企業は、老舗だからこその強みがある一方、その分課題も見えてきます。今回は、株式会社第一紙行 ブランディング事業部の著書『地域と企業の未来を紡ぐ ルーツ・ブランディング』(幻冬舎メディアコンサルティング)より、1879年創業の千葉県いすみ市の酒蔵「木戸泉酒造」を例に、ブランド力を高める秘訣についてみていきましょう。

商品開発の歴史は老舗企業の強みになる

長い歴史を誇る老舗企業は、事業の継続、成長のために挑戦を繰り返して今に至ります。長い時間をかけ蓄積された経験値は、新興企業がすぐに真似することができない老舗企業の強みといえます。

 

ところが、この歴史がコンセプトメイキングを難しくしてしまうケースもあるのです。さまざまな挑戦をしてきた老舗企業は、こだわりやノウハウが多岐にわたるため材料があり過ぎて、消費者に最も伝えるべき価値がどれになるのかを見極めにくくなってしまいます。

 

これらの点で参考になる事例が、千葉県いすみ市にある木戸泉酒造でのブランディングです。

 

明確な特徴がある一方で、解決すべき課題があった

千葉県いすみ市は、県庁所在地の千葉市から50㎞以上離れた房総半島の南部に位置します。この地に明治12年(1879年)に創業し、145年以上の歴史を誇る老舗酒蔵が木戸泉酒造です。現在は5代目で蔵元兼杜氏の荘司勇人社長が、荘司沙織専務とともに蔵の経営を切り盛りしています。

 

木戸泉酒造の大きな特徴は、5年、10年、20年、古いものでは50年以上も熟成を重ねている日本酒を貯蔵していることです。

 

今でこそ熟成させた日本酒は注目されていますが、木戸泉酒造が持つ熟成酒は50年以上、現存する日本酒蔵のなかでも最初期に日本酒の熟成を始めた蔵のひとつです。

 

常温熟成をしてもへこたれない木戸泉酒造独自の強い酒を生み出しているのが、「高温山廃酛」と呼ぶ醸造手法です。昭和31年に3代目の荘司勇氏の決断で、すべての醸造を高温山廃酛に切り替えたことがターニングポイントになり、その後の木戸泉酒造の酒づくりを特徴づけることになりました。

 

当初、私たちが受けたご依頼は熟成酒のブランディングでした。しかし、話を聞き始めると、その前に解決すべき課題が見えてきたのです。

 

その一つが複雑な商品構成です。熟成酒だけでもいくつかのタイプがあって品ぞろえが非常に多彩なため、「同じ熟成酒でも銘柄名が違うものは何が違うのか」「同じ銘柄名だけど、これとこれはなぜ価格差があるのか」といった疑問が随所に発生し、私たちは全体像をなかなか把握することができませんでした。

 

それは、消費者から見ても商品構成が分かりづらいということにほかなりません。販売先に合わせて商品の名称を変えるなどするケースもあるため、種類ごとの違いが消費者に分かりづらくなってしまうのです。

 

さらに、木戸泉酒造の商品はラベルのデザインに統一性が感じられませんでした。同じ銘柄であっても、商品によって見た目の印象が異なるラベルが使われている場合があり、ほとんど統一性が感じられないのです。

 

ラベルのデザインは、統一性を持たせることが正解であるとは一概にはいえませんが、あまりに違うとブランドイメージが伝わりづらくなるのは確かであり、木戸泉酒造もまさにその状態だったのです。

 

社長と専務が木戸泉酒造の未来についてしっかりと考えたいという思いを抱いていたことも理由となり、私たちは酒蔵全体のブランディングをお手伝いすることになりました。

次ページブランディングの軸に役立ったものとは……

※本連載は、株式会社第一紙行 ブランディング事業部の著書『地域と企業の未来を紡ぐ ルーツ・ブランディング』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部抜粋し、再編集したものです。

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