夫が亡くなった65歳女性、スムーズに遺産分割協議が進んだものの…法務局からの〈思わぬ差し戻し〉に驚いたワケ【相続の専門家が解説】

夫が亡くなった65歳女性、スムーズに遺産分割協議が進んだものの…法務局からの〈思わぬ差し戻し〉に驚いたワケ【相続の専門家が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

実印だと思って押した印鑑が、それと似た認印で実印ではなかったために、法務局などから申請が突き返されてしまうといったケースが少なくありません。本記事では、実印の管理方法などについて、相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が解説します。

事例2  同じような認印が3つあり、どれが実印かわからない

65歳の真澄さんは夫が亡くなったため、3人の子どもたちと遺産分割協議をして、自宅の名義を変えることになりました。子どもたちはまだ30代で、印鑑証明書が必要な契約などをした経験がなく、実印を作っていない状況でした。

 

相続の手続きをするということで、子どもたちそれぞれが実印登録をして、遺産分割協議書に調印することになりました。子どもたちは、仕事や住まいの都合で、それぞれ実家を離れて生活しており、集まるのは大変なことから、順番に押印して仕上げることに。遺産分割協議書が出来上がり、司法書士に依頼して、相続登記の申請をしました。

 

ところが、ほどなくして法務局から長女が押印した印鑑と実印が違うと指摘があり、司法書士から連絡があったのです。

 

長女の実印はやはり名字だけの認印です。よく見ないと違いがわかりませんが、法務局では印鑑証明書との照らし合わせで、違いを発見したということでしょう。戻ってきた遺産分割協議書と印鑑証明書を照らし合わせてみると、確かに大きさが少し違うのと、はねる部分が違うということがわかりました。

 

長女に確認すると、同じような認印が3つあり、どれを実印にしたのかわからなくなってしまったと言います。そこで、3つとも持参してもらい確認してみると、印鑑の確認ができ、遺産分割協議書の押印の隣に正しい実印を押し直すことができました。それで法務局に申請し直し、無事、相続登記は完了したのです。

法務局はきちんと確認する

この2つの事例は、認印で実印登録をしたために他の認印と混同してしまったという内容です。こうした事態に陥らないためにも、フルネームの入った印鑑で実印登録をすることがふさわしいということでしょう。

 

また今回は、相続登記の場面で特に時間的な制約がなかったために登記申請を取り下げ、正しい実印で再提出することができましたが、相手がある売却などの際には、当日になって実印が違う、見つからないということになれば大事態です。迷惑をかけてしまう人も出てきてしまうので、やはり、実印の管理は不可欠と言えます。

 

登記の専門家である司法書士や職員の人が気が付かない実印の違いを、法務局の担当官が見逃さずに発見するということは、やはりプロだということでしょう。きっと印鑑を間違えた本人も故意ではなく、気が付かない、思い込みのことでしょうが、登記申請のし直しという手間になりますので、注意が必要です。

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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