労働基準法の第106条に定められた就業規則の周知義務
最近、会社のリスク回避を目的として、就業規則の整備に着手する企業が増えてきました。多くの経営者及び管理職の方々が、就業規則の重要性を再認識してきているように思います。労働基準法に、「常時10人以上の労働者を使用する事業場では、必ず就業規則を作成しなさい」という規定(労基法第89条)があることは広く一般に知られていることかと思います。
一部の会社を除き、「うちも就業規則はちゃんと作ってありますよ」と経営者の方はおっしゃいます。その就業規則、何処に置いてありますか?と聞くと、金庫の中や社長の引出の中にあるとの事。必ずしもそれがいけないと言うことではないんですが、『周知』という面で問題となる事が多々ありますので、ご注意ください。
また、従業員さんに「自社の就業規則、ちゃんとご覧になったことありますか?」と質問すれば、かなりの確率で、「一度もありません」と返ってくることが多いです。「就業規則を見せて下さいと会社に言いづらい」なんて言葉もよく耳にします。
就業規則に関しては、作成後、「労働者代表の意見聴取」、そして「労基署への届出」、「労働者への周知」という3つのポイントがございます。「労働者代表の意見聴取」や「労基署への届出」はしてあっても、従業員へ『周知』してない就業規則が非常に多く、このことでトラブルとなるケースが増えています。労働基準法の第106条には就業規則の周知義務というものがあります。
①常時各作業場の見やすい場所に掲示し、または備え付けること。
②書面を労働者に交付すること。
③磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。
以上のように、周知の仕方にも決まりがありますし、当然これに違反すれば罰則も設けられています。
周知されてない就業規則は効力を持たない!?
さて、従業員に『周知』されてない就業規則は役に立つのでしょうか?判例を見ますと、やはり「就業規則が拘束力を生ずるためには、その適用を受ける事業所の労働者に周知させる手続きを要する」。という見解が大方を占めます。ということは、従業員は『周知されてない』就業規則には拘束されないということです。見たことないルールに縛られないのは、当然と言えば当然ですよね。
例えば、就業規則に記載してある解雇事由に該当するから、君は解雇だ!と言ったとしても、そもそも就業規則が『周知されていない』ことで解雇できないなんてケースは避けたいものですね。せっかく労働条件やルールを整備し就業規則を作成したのであれば、後の不要なトラブルを避けるうえでも、大事に金庫にしまわず、しっかり労働者へ「周知」しておきましょう。